その日はとても暑い日だった。こんなに暑いというのに日本の人間たちはへでもないと言った様子で街中を歩いている。建物の高さに思わず圧倒され立ち止まると後ろを歩いていたネプヌスが僕にぶつかった。
「ちょっと、止まるなら言ってよ。もー、それでどうしたの?」
僕は首を振るとなんでもないと答え、また進み始めた。トウキョウは上に広かった。ビルという建物群や住宅の高さがとても広かったとそれだけしか感じなかった。しかしもっと西の方へ行くと、団結力というか住人たちの乗り越えてやるぞという意気込みがすごく近く感じて日本という国内だけでもこんなに違うのだなと勉強になった。海を渡って他の国に行ってみると、普段地震の少ない国でも自分たちの力だけでなく地震について詳しい日本などの他国と連携して、今後の対策を練ったり復興支援を受けたりして前に進もうとしていた。僕は自分が間違っていたことに気づいた。自分でもわからない所でどこか人間たちを弱い生物だと思い込んでいたのかもしれない。僕は悔しくなった。自分が守らないといけない、守りたいと思っていた人間が実はこんなにも発展していたなんて想定外だった。僕は心の中で人間に謝った。家に帰る道中、ネプヌスは興奮した様子で地球のすごい所を話していた。僕はぼーっとするばかりでまともに返事をしていなかったらしくネプヌスが拗ねた様子で
「お兄ちゃん、今日ずっと様子が変だよ?どうしたの、言ってよ?」
と言った。僕はすっかり頼もしくなってしまった弟に感激しながら言った。
「人間は守るべき存在だと思っていたんだ。でもそれは違った。もしかしたらそのうち僕らの存在を知って敵だと攻撃してくる可能性だってあるんだ。そう考えると今までなんで人間を弱い存在だと決めつけていたのか不思議だよ。」
ネプヌスはうんうんと頷きながら同意してくれた。お兄ちゃんも運転しながらこちらを振り返って
「ウラノスもネプヌスも成長したなー。まだ俺の半分も生きてないのにな。」
そう言われ返事をした僕たちの声が重なった。
「「子供扱いしないでよ!」」
そして口々に自分の年齢を自慢げに話した。それがおかしくて沢山笑った。こんな平和な時が戦いの後にあるとは思えなくて、ふとこれは夢なのではないかと思い始めた。頬をつねっても痛くない。あれ?もしかして本当にこれは夢なのだろうか?そう思って辺りを見回していると二人が不思議そうにどうしたかと問うてきた。僕は急に怖くなって
「だ、誰?」
と聞いた。すると二人は最初は笑っていたものの段々と恐ろしい形相になりコロニーの姿になってしまった。
「うわぁ!」
と仰天する僕の横でコロニーたちはケラケラと笑いなぜバレたのかと話し合い出した。夢であってくれと心から願った。しかし夢から覚めることはなく、怖くなって涙が溢れ出てきた。心の中でメルクリウスお兄ちゃんやネプヌスの名を何度も呼ぶと頭に自分を呼ぶ声がこだました。
「ウラノス、ウラノス!起きろ!ウラノス…。ウラノス!」
僕はそこではっきりと意識を取り戻した。ぼーっとする視界にはメルクリウスお兄ちゃんとネプヌスの顔が見えた。ホッとしたのも束の間目の前の二人は縛られて涙目でこちらを見ていた。僕らはコロニーに捕まったのだった。僕が起きたことを確認したコロニーは僕のことも縛った。しばらくすると偉そうな奴が前へ進み出てきて言った。
「なんでお前たちは我々に攻撃するのだ?我々だけでなくお前らにも被害があるだろうに。」
僕は目を見開いて驚いた。コロニーたちには戦う意志はなかったのかもしれない、一方的にこちらが仕掛けたと思っているのかもしれないそう思ったからだ。すると念話でお兄ちゃんが言った。
『油断するな。気を引いて何かを企んでいるのかもしれないからな。』
その言葉で僕はハッとし、顔を引き締めた。そしてお兄ちゃんはこう返した。
「そちらが一方的に襲いかかって来たのではないか!こちらにも被害がある?ああその通りだよ。この前の戦いで僕たちは家族を失った。お前たちにも家族はあるだろう、なぜこの苦しみがわからない?」
しばらくの沈黙の後コロニーは言った。
「我々はそちらが大軍を作っていると聞いて防衛したまで。もし間違いでも怪しい行動をしているそちらが悪いだろう。」
横でギリっと唇を噛む音が聞こえた気がした。僕はそんなお兄ちゃんを見て一言だけこう言った。
「悪かった、よね。」
お兄ちゃんは驚いて僕に強く言い放った。
「悪かった?何を言っているんだ!一方的に攻撃を仕掛けてきたのは向こうで、こっちは防戦していただけではないか!悪いのは向こうだ!今こうして縛られているのが何よりの証拠じゃないか?」
するとネプヌスは悲しそうに笑って言った。
「メルクリウスお兄ちゃん、それでも疑われるような行動とった僕たちが悪いんじゃない?確かに僕たちは誰も殺していないのに家族を、お兄ちゃんを殺された。それは許せないことだけどまず僕らが謝るべきなんじゃない?悔しいのは僕もウラノスお兄ちゃんも一緒だよ。」
しばらくの沈黙の後お兄ちゃんは泣きながら僕らにごめんと謝った。
「そうだよな、自分にして欲しいことはまず自分から、ってあんなに母さんに教わったのに。どうして忘れたりしたんだろう。コロニーの皆さん、申し訳なかった。」
するとコロニーたちは僕たちの縄を解き整列した。
「お前たち、いや惑星の子らよ。その、悪かったな。そちらの家族を殺すつもりはなかったんだ。我々も必死で…。すまなかった。」
お兄ちゃんは笑顔で手を差し出した。コロニーのリーダーとお兄ちゃんが手をとり、互いに誓った。
「「もう私たちはお互いに歪み合うことはしません。これからは互いに情報を共有して間違いが起きないようにします。」」
宣誓が終わると僕らは全員で握手をして仲直りをした。そして僕らは船に乗り込みゆっくりと出発した。家に着くと近くの住民の皆が走り寄ってきて口々に大丈夫だったかコロニーが出動したっていう情報があると教えてくれた。僕たちは今日あったことを報告した。皆は真剣に聞いてくれてまだコロニーを許せないけれどもう争わないと決められたのは安心できると言ってくれた。それからトウキョウやヒロシマ、その他の国の様子を僕らが口々に報告すると皆は興味津々と言った様子で聞き入っていた。僕はそれが嬉しくてなぜか笑いが込み上げてきた。皆は不思議そうにしていたがいつの間にか皆も笑い始めて笑いの大合唱になった。これからは安心安全に生活することができるんだと思うとお兄ちゃんたちの死は無駄じゃなかったと思えて嬉しかった。