蔑まれ、惨めに生涯を終えると思っていた人生が一変したのは
「私が最も愛した男と、最も難き女の子よ。――私の嫁に来い」
この強引な言葉が切っ掛けだった。
 因果とは数奇なもので、何処でどのように繋がるかは分からない。
 妖力による圧倒的な武力を持ち、国主として君臨する妖人。
 そして妖人の妖力を授かり、守護や治癒の結界で怪異の脅威を退ける補佐を成す嫁御巫。
 神州全土を統一する国家がなく、異国の文化が入り込み日々様変わりする世においても、両者の繋がりが国家安寧に大きく関与するのは変わりない。
 《傾国の鬼人》と呼ばれる絶世の美男子――鬼の妖人が「嫁に来い」と、言い放った言葉。
 操を立てるのを誓う白い喪服姿で葬儀に参列していた――無能と蔑まれる嫁御巫は、その命令に対して
「これは、復讐でしょうか」
 そう、尋ねる。
 力関係から、嫁御巫に拒否権はない。それでも、尋ねずにはいられなかった。
 氷のように冷たい表情、焔のように紅い瞳。娶ると宣言した妖人は、返答すらしない。
 この日――傾国の鬼人が、白い喪服の嫁御巫を娶るという異常事態が起きた。
 血の因果で憎み合うべき者たちが交わる事件が、やがて神州全土を巻き込む炎となる――。