- じめじめとした梅雨を超えて、本格的に夏を迎えた。
入道雲がもくもくとこの世界を覆い被さるように空で存在感を放ち、蝉の声が夏の世界へ連れて行ってくれるように鳴いていた。
相変わらず毎週水曜日はお兄ちゃんといたベンチでぼーっとして雫とも遊ぶようになって、楓の試合観戦に行ったりなど比較的順風満帆に学校生活を過ごしている。
過ごしているはずなのに、私はどこかぽっかりと穴が空いたような、そんな喪失感が消えることなく私の心の中を渦巻いている。
季節が移り変わり始めても、翠くんはまだ姿を現さない。
熱に浮かされた3日後、体調も良くなり、私は意を決して学校へ向かった。
しかし、翠くんは3日経った今も学校に姿を現してないと言う。
最初は謝ろうと思って学校に来たので拍子抜けしてしまったが、翠くんも体調を崩したのかと心配になった。
ただ1週間後HRで翠くんについて先生から一報があったのだ。
内容は入院していると言うこと。元々の持病が再発したため1ヶ月ほど学校には来ないと言うものだった。
私はそれを聞いて病院での出来事を思い出した。
あの時ははぐらかされたけれど、本当はあの時も重症だったのか。
おそらく入院しているのはこの前会ったあの病院だろうけど、なかなか足を向ける勇気が出なかった。
最後私のひどい言いがかりで最悪な雰囲気で別れてしまって、もしかしたら翠くんも嫌気が差しているかもしれない。そう思うと怖くて会うことすら阻まれるのだ。
けれど、翠くんに会いたい気持ちも変わらない。
会ってちゃんと謝って、翠くんのことをもっと知りたい。
最近は葛藤に頭を悩ませてぼーっとすることが多くなった。
雫にも心配されて申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
そんな中今日は雫と駅前で人気のカフェに来ている。
SNS で話題になっていて、高校生に人気のカフェだ。
「沙羅本当にどうしたの?最近ずっと上の空だし…広瀬くんでしょ?原因は」
雫にはお見通しらしい。私が分かりやすいだけかもしれないけど。
「いや…やっぱ心配じゃん…喧嘩別れしちゃったし…」
雫には図書館での出来事は話してある。
「だーかーらー!会いに行ってみればいいじゃない?もう2週間も経つんだから、いつまでも悩んでるより手っ取り早いでしょ?」
「それはそうなんだけど…やっぱり怖いって言うか…ねえ」
うじうじしている私に明らかに雫は呆れていた。
「広瀬くんに限ってないと思うよ?会いに来たら喜ぶと思うけどなー?」
雫の言葉にはは、と苦し紛れに答えたところで、頼んだパンケーキが届いた。
縦にボリュームがあり、上には蜂蜜と生クリームがかかっていて、見るからに美味しそうだ。
お互いに写真を撮って一口入れると、口の中で生クリームの程よい甘さとフルーツの甘酸っぱさが程よく広がり、人気なのも頷ける。
久しぶりに甘い物を摂取した気がする。糖分を摂取したからか悶々と膨らんでいる思考も少し冷静になれた気がした。
「どう考えても私が悪いよね...。せっかく付き合ってくれてたのにね、というかそれなのにお見舞い1つ行かない私ってめちゃくちゃ冷たいやつじゃん...」
冷静になればなるほどやっぱり思考はネガティブになっていく。
「そう思ってるならさっさとお見舞い行きなよ〜。そしてついでに付き合っちゃえ」
また本気か嘘か分からない雫の言葉にはは、と愛想笑いしながら、明日病院へ行ってみようと心に誓ったのだ。
ー翌日私はいつも通り学校に行って1日過ごし放課後病院へ行ってみることにした。雫には言っていなかったはずなのに病院に行くことが一瞬でバレてしまった。
「沙羅ソワソワし過ぎてすぐ分かったよ〜」
「いやしてないし」
「即答かよ。でもまあ頑張りなよ、ちゃんと仲直りできるといいね」
本当に雫が友達でよかったと心の底から思った。
雫の言葉にありがとう、と一言言って私は病院へと足を向けた。
翠くんの病院はおそらく私の通っていた病院で間違いないだろう。この前もここの病院で会ったし家がこの近くだと言っていた。
「あれ?沙羅ちゃん?」
しばらく歩いて目的の病院を目の前に足を踏み入れると、前方から懐かしい人が私の目の前で笑顔を向けている。
「あ...白崎先生...!お久しぶりです」
「うんうん久しぶり!!大っきくなったね〜しばらく会ってないなって思ったんだ。...まあそれが1番いいことなんだけどね!」
白崎先生が小さい頃救急で運ばれてきた時にお世話になった先生だ。先生はその頃まだ入ったばかりで研修医だったけど沢山話しかけてくれた先生だ。それから通院や検査があった時などは全部白崎先生にお世話になっていたので私の第2のお父さんと言えるほど先生といると落ちつける。
「はい。おかげさまで...あの、先生ここの病院に広瀬翠って人入院してませんか?」
先生だからもしかしたらと思い私は彼の名前を口にした。先生に聞いた方が手っ取り早いだろうし。
「え...沙羅ちゃん翠のこと知ってるの?」
先生は目を見開いて私を見つめている。
「...?はい。同じクラスなんです翠くんとは。あと...小さい頃ここの病院で仲良くしていたお兄ちゃん私がずっと探してるって言ったら彼が一緒に手伝うって言ってきたんです。それから仲良くさせてもらってるんですけど、入院したって聞いて心配で...」
先生にはお兄ちゃんの話を沢山していた。毎日先生が部屋に来ると私はそのお兄ちゃんのことを全部話した。
そしてそのお兄ちゃんがいなくなってしまったのも知っている。私がこの病院で大泣きしてしまって沢山迷惑をかけた。今思うとすごい迷惑な子供だったと思う。
先生は少し悩んでいる素振りをしたいたけれど
「うん、いるよ翠。部屋案内してあげる。」
そう言って何も無かったかのように歩き始めた。
先生の後ろをしばらくついて行って4階に上がってナースステーションを通り過ぎると、部屋の外には広瀬という名前の表示がされていた。本当に入院しているんだ、と間抜けなことを考えていると先生は着いた、と言って振り返った。
「僕も行きたいところだけど休憩終わっちゃってるから仕事戻るね、ごめんね沙羅ちゃん」
そう言って先生は申し訳なさそうに手を合わせた。
「いえ、こちらこそ案内まですみません...!ありがとうございました」
そう言って先生は手を振りながら仕事に戻って行った。
そしていよいよこのドアの向こう側に翠くんがいると思うと緊張してなかなかドアを開けれずにいた。傍から見ればただただ怪しい人だろう。
入道雲がもくもくとこの世界を覆い被さるように空で存在感を放ち、蝉の声が夏の世界へ連れて行ってくれるように鳴いていた。
相変わらず毎週水曜日はお兄ちゃんといたベンチでぼーっとして雫とも遊ぶようになって、楓の試合観戦に行ったりなど比較的順風満帆に学校生活を過ごしている。
過ごしているはずなのに、私はどこかぽっかりと穴が空いたような、そんな喪失感が消えることなく私の心の中を渦巻いている。
季節が移り変わり始めても、翠くんはまだ姿を現さない。
熱に浮かされた3日後、体調も良くなり、私は意を決して学校へ向かった。
しかし、翠くんは3日経った今も学校に姿を現してないと言う。
最初は謝ろうと思って学校に来たので拍子抜けしてしまったが、翠くんも体調を崩したのかと心配になった。
ただ1週間後HRで翠くんについて先生から一報があったのだ。
内容は入院していると言うこと。元々の持病が再発したため1ヶ月ほど学校には来ないと言うものだった。
私はそれを聞いて病院での出来事を思い出した。
あの時ははぐらかされたけれど、本当はあの時も重症だったのか。
おそらく入院しているのはこの前会ったあの病院だろうけど、なかなか足を向ける勇気が出なかった。
最後私のひどい言いがかりで最悪な雰囲気で別れてしまって、もしかしたら翠くんも嫌気が差しているかもしれない。そう思うと怖くて会うことすら阻まれるのだ。
けれど、翠くんに会いたい気持ちも変わらない。
会ってちゃんと謝って、翠くんのことをもっと知りたい。
最近は葛藤に頭を悩ませてぼーっとすることが多くなった。
雫にも心配されて申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
そんな中今日は雫と駅前で人気のカフェに来ている。
SNS で話題になっていて、高校生に人気のカフェだ。
「沙羅本当にどうしたの?最近ずっと上の空だし…広瀬くんでしょ?原因は」
雫にはお見通しらしい。私が分かりやすいだけかもしれないけど。
「いや…やっぱ心配じゃん…喧嘩別れしちゃったし…」
雫には図書館での出来事は話してある。
「だーかーらー!会いに行ってみればいいじゃない?もう2週間も経つんだから、いつまでも悩んでるより手っ取り早いでしょ?」
「それはそうなんだけど…やっぱり怖いって言うか…ねえ」
うじうじしている私に明らかに雫は呆れていた。
「広瀬くんに限ってないと思うよ?会いに来たら喜ぶと思うけどなー?」
雫の言葉にはは、と苦し紛れに答えたところで、頼んだパンケーキが届いた。
縦にボリュームがあり、上には蜂蜜と生クリームがかかっていて、見るからに美味しそうだ。
お互いに写真を撮って一口入れると、口の中で生クリームの程よい甘さとフルーツの甘酸っぱさが程よく広がり、人気なのも頷ける。
久しぶりに甘い物を摂取した気がする。糖分を摂取したからか悶々と膨らんでいる思考も少し冷静になれた気がした。
「どう考えても私が悪いよね...。せっかく付き合ってくれてたのにね、というかそれなのにお見舞い1つ行かない私ってめちゃくちゃ冷たいやつじゃん...」
冷静になればなるほどやっぱり思考はネガティブになっていく。
「そう思ってるならさっさとお見舞い行きなよ〜。そしてついでに付き合っちゃえ」
また本気か嘘か分からない雫の言葉にはは、と愛想笑いしながら、明日病院へ行ってみようと心に誓ったのだ。
ー翌日私はいつも通り学校に行って1日過ごし放課後病院へ行ってみることにした。雫には言っていなかったはずなのに病院に行くことが一瞬でバレてしまった。
「沙羅ソワソワし過ぎてすぐ分かったよ〜」
「いやしてないし」
「即答かよ。でもまあ頑張りなよ、ちゃんと仲直りできるといいね」
本当に雫が友達でよかったと心の底から思った。
雫の言葉にありがとう、と一言言って私は病院へと足を向けた。
翠くんの病院はおそらく私の通っていた病院で間違いないだろう。この前もここの病院で会ったし家がこの近くだと言っていた。
「あれ?沙羅ちゃん?」
しばらく歩いて目的の病院を目の前に足を踏み入れると、前方から懐かしい人が私の目の前で笑顔を向けている。
「あ...白崎先生...!お久しぶりです」
「うんうん久しぶり!!大っきくなったね〜しばらく会ってないなって思ったんだ。...まあそれが1番いいことなんだけどね!」
白崎先生が小さい頃救急で運ばれてきた時にお世話になった先生だ。先生はその頃まだ入ったばかりで研修医だったけど沢山話しかけてくれた先生だ。それから通院や検査があった時などは全部白崎先生にお世話になっていたので私の第2のお父さんと言えるほど先生といると落ちつける。
「はい。おかげさまで...あの、先生ここの病院に広瀬翠って人入院してませんか?」
先生だからもしかしたらと思い私は彼の名前を口にした。先生に聞いた方が手っ取り早いだろうし。
「え...沙羅ちゃん翠のこと知ってるの?」
先生は目を見開いて私を見つめている。
「...?はい。同じクラスなんです翠くんとは。あと...小さい頃ここの病院で仲良くしていたお兄ちゃん私がずっと探してるって言ったら彼が一緒に手伝うって言ってきたんです。それから仲良くさせてもらってるんですけど、入院したって聞いて心配で...」
先生にはお兄ちゃんの話を沢山していた。毎日先生が部屋に来ると私はそのお兄ちゃんのことを全部話した。
そしてそのお兄ちゃんがいなくなってしまったのも知っている。私がこの病院で大泣きしてしまって沢山迷惑をかけた。今思うとすごい迷惑な子供だったと思う。
先生は少し悩んでいる素振りをしたいたけれど
「うん、いるよ翠。部屋案内してあげる。」
そう言って何も無かったかのように歩き始めた。
先生の後ろをしばらくついて行って4階に上がってナースステーションを通り過ぎると、部屋の外には広瀬という名前の表示がされていた。本当に入院しているんだ、と間抜けなことを考えていると先生は着いた、と言って振り返った。
「僕も行きたいところだけど休憩終わっちゃってるから仕事戻るね、ごめんね沙羅ちゃん」
そう言って先生は申し訳なさそうに手を合わせた。
「いえ、こちらこそ案内まですみません...!ありがとうございました」
そう言って先生は手を振りながら仕事に戻って行った。
そしていよいよこのドアの向こう側に翠くんがいると思うと緊張してなかなかドアを開けれずにいた。傍から見ればただただ怪しい人だろう。