「ここ数十年のアケロニアは面白いよね。どこの国の社交界で王族や貴族たちと遭遇しても、皆ピシーッとした軍服姿でさ。たまに女性たちがドレス着てるかと思ったら、あれ下に軍服着てていつでもドレスを着脱できるって聞いたときはビックリしたよ」

 世界で最も有名な魔力使いの魔術師フリーダヤがしみじみ思い返している。
 彼は彼なりの行動規範によって、各国を旅していることが多い。現地で周囲に正体が露呈すると請われて宴席に招かれるため案外顔が広かった。

「うち、王侯貴族や、官僚なら平民も問答無用で軍属ですから」
「戦争しないのに何で軍装にこだわるの?」
「戦争しないと決めたからと言ったって、いつ敵と出くわしたり、戦争になるかわからないじゃないですか。タイアド王国とかタイアド王国とか」

 そもそもが、貴族全員を軍属にさせ、女性にも軍装を標準礼装にさせるに至った原因こそが、タイアド王国との関係摩擦だ。

 王太子妃として輿入れしたヴァシレウス大王の長女クラウディア王女を粗末に扱って早死にさせたタイアド王国は、今なおアケロニア王国の敵性国家である。

 軍服を纏っている間は、性別は女性でも男性と同等扱いと公示されているため、女性の礼法としてのカーテシーも行わず、男性と同じ手を胸に当ててお辞儀するボウアンドスクレープだったりする。

 ちなみにアケロニア王国の軍装の貴族女性はまさに男装の麗人となるため、他国のパーティーでは若いご令嬢のダンスパートナーとして大人気だ。
 背も高く、性格も顔立ちも男前のグレイシア王女様など競争率が高いのなんの。



 おやつの時間になって、オヤジさんがパンケーキを焼いてくれたので、食べながらお喋りの続きだ。

「パンケーキはお国柄が出るんだよね。皆、ふくらし粉を入れた甘い生地で大丈夫かな」
「あ、僕はクレープ生地のやつが食べたい!」
「了解」

 それでオヤジさんが作ってくれたのが、牛乳とミルク入りのクラシックパンケーキと、ルシウス希望のクレープタイプのパンケーキの2種類だ。

 クラシックパンケーキはふっくら厚みが出るよう焼き上げた甘い生地をバターとメープルシロップで。

 クレープタイプのものは、卵多めの緩い生地を薄焼きにして折りたたんだ、もっちり食感で甘くないタイプ。
 こちらはジャムやクリームを添えて。
 ちょうどオヤジさんが手作りしたばかりのベリーのジャムを出してくれた。

「アケロニア王国は王女様もご懐妊なんだろ? 坊主の兄貴の嫁さんより予定日がちょっと早そうだね」

 おやつ希望の人数分のパンケーキを作り終えたオヤジさんが一休み、とお茶を飲んでいる。

「お生まれになったら、グレイシア王女様以来の王族の誕生だね。お祭りになるだろうな〜」
「ルシウスの甥っ子か姪っ子も同い年になるんだよな。ご学友になるんじゃね?」
「どうかなあ。今の王族の皆さんと僕の父様がすごく仲が良いから、兄さんや子供の世代はちょっと距離を置くかもしれない」

 今の王家とルシウスのリースト伯爵家は何かと因縁有りの仲の良さだが、あまり親しくしすぎると伯爵家から爵位を上げられて王族派として担ぎ上げられかねない。

 その辺の距離の取り方は結構重要だった。