その日の晩、ルシウスは夢の中であの綿毛竜(コットンドラゴン)の仔竜と再会した。



『ピュイッピュイッ!』
(人間の子よ! この間はボクを助けてくれてありがとう!)

 小さな仔竜は勢いよくルシウスの胸の中に飛び込んできた。
 ぽふん、と白く柔らかな羽毛に覆われた仔竜を受け止めると、その背中には魔法樹脂の透明な翼がぱたぱたと動いていた。

 その翼や小さなふわふわ羽毛の頭を優しく撫でてやりながら、

「新しい翼は大丈夫? 不具合があったらまた来てね。調整するから」

『ピュッ、ピュイッ』
(全然平気! クールでハイカラだねって仲間たちに褒められてるよ!)

 ルシウスの腕の中で仔竜は自慢げに胸を張った。可愛い。

「そっかあ。……あのね、君の翼をあの後見つけたんだけど、薬師の人にポーションにしてもらって飲んじゃったんだ。ごめんね」

『ピューイッ!』
(問題ないよ! 君がボクの一部を取り込んでくれたお陰で、ボクはこうして君に会いに来れたんだもの)

「あ。加護をありがと。でもここ、夢の中でしょ。現実世界では会えないの?」

『ピュアア……』
(お母ちゃんがもっと大きくなるまでは群れの中から出たらダメだって)

 魔法樹脂の透明な翼は目立つ。
 少なくとも自衛できるぐらい大人になって、竜種らしい強さを身につけるまでは駄目と言われたそうだ。

「そっか。じゃあ再会できるのはお互い大人になってからだね。楽しみにしてる」

『ピュイッピュイッピュイッ!』
(ボクも! ボクもまた君に会いたい! 大人になったら君を乗せて空を飛びたいな!)

「お空! 楽しみ! 楽しみにしてる!」

『ピュイッピュイッ』
(楽しみ! 楽しみ!)



「! そうだ、忘れてた! ねえ君、君の翼をむしった相手のことを教えて!」

 お別れする前に、聞いておかねばならないことを思い出せた。

『ピューピュイッ!』
(人間の男だよ。気持ち悪い魔力を持ってて、ボクは森で果物を食べてるときに捕まったんだ)

「森……」

 ココ村海岸から内陸部、最寄り町とは反対方向に該当する地域がある。
 そしてハッと気づいた。

「もしかして、あの飯マズ男、森林地帯に潜伏してるのかも」

 これはあの男を調査しているサブギルマスのシルヴィスに報告せねばならない。

 それから、仔竜を襲った男の特徴を確認すると、間違いない。
 あの飯マズ男ケンの外見的特徴と一致した。

『ピューピュイッ』
(あの男、ボク以外にも魔物や動物を痛めつけてたみたいだ。君も気をつけて)



 そうしてひとしきり、もふもふな綿毛竜(コットンドラゴン)の仔竜と戯れた後で。
 仔竜はルシウスの腕の中からぴょんっと空中に飛び出した。

『ピュイッピュッ』
(そろそろ帰るね。ボクに翼を付けてくれたあの容赦のないお姉さんにもお礼を言ってくれるかい?)

「ロータスさんに? あ、そういえば僕もまだお礼言ってなかった」

 あのときは仔竜の翼を魔法樹脂で修復するなりの母竜来襲でそれどころではなかったのだ。



『ピュイッピュイッ』
(あとね、ボクに君から名前を付けてほしいんだ。カッコイイやつ頼むよ!)

「えっ、名前!? ええと〜」

 目の前に浮いている仔竜を、ルシウスは湖面の水色の瞳でじっと見つめた。

「羽毛ふわふわ……フワン?」

 安直すぎる。仔竜の反応は芳しくない。

「お腹ぷくぷくだねえ。プーちゃん?」

 ギュルウ〜と仔竜が鳴く。不満そうだ。

「お腹ぽんぽんもしてるから、ポンポン君とかポポン君とか」

 グギャア〜! と仔竜が低く唸った。
 却下!
 君、ネーミングセンスないね!

「仕方ないなあ。じゃあ羽毛が雪みたいだからユキノ君だ。ユキノ・リースト。今この瞬間から君は僕んちリースト伯爵家の一員だよ」

「ピュイッピュイッ♪」

 これは大当たり!

 かくして仔竜ユキノはルシウス少年に竜の加護を与え、今後それなりに長い付き合いとなるのである。