「奪うチカラ……」
それがウロボロスの持つチカラだ。
『そうだ。しかも、ただ相手の物を奪うんじゃねえ。周囲の物質とかはもちろん、電気とか炎みたいな実体の無いものまで自分のものにできちまう。まあ、自分より強かったりスペック以上のものは難しいが、工夫したり強くなれば可能性は無限大! どうだ、興味出てきただろ?』
つまり、お前のものも、お前のもの以外のものも俺のものにできるということだ。
「すご! あ、でも自分のものにした後はどうすんの? 手がいっぱいだと奪えないんじゃ……。それに、手から離れたら元に戻ったり、持てる分だけとか、時間制限とか……そう言う条件は?」
『なななんと! そういった制限は一切ございません! 俺様が独自に創造した異空間、通称アイテムボックスにほぼ無限に収納できますので奪いたい放題ですし、手元から離れてもマーキングはされていますので、念じれば瞬時に手元に引き寄せることも可能。
そして、奪ったものが壊れたり消えたりすれば消費されるものの、時間は無制限かつ、アイテムボックスではその奪った瞬間の状態で保存されますので、取り出した時に劣化したり腐ったりという心配がないんです!!』
デウスはなぜかテレビショッピングのような口調でメーシャに商品紹介をした。もしかすると地球に来て半年の間に、こういった番組を見ていたのかもしれない。
「うぉおおお!! ぶっ壊れユニークスキル的なやつじゃん!! それにアイテムボックス! ゲームとしては疑問に思いつつスルーしてたシステムだけど、神様とか高位の存在が創った世界をそのまま物置にしてるって、とんでも発言だし贅沢だけど納得できるかも!」
メーシャのお気に召したようだ。
『まあ、他にもある程度身体能力も上がるが、基本的にはメーシャの戦い方次第で善戦も苦戦もする。クセは強いが、受け取ってくれるか? 一応、本当に嫌ならお前を助けて、離れた場所に避難させる余裕くらいはある』
デウスは龍脈にそって日本津々浦々色んな神社やパワースポットを巡り、その地のエネルギーを吸収したり、八百万の神々に事情を話して頼み込んだりして、なんとかチカラを継承できるまでに回復したのだった。
だが、メーシャが万が一断った場合を想定してあえて身体の回復はせず、他の候補者が見つかるまでの間、邪神軍からの攻撃から守るためにエネルギーをストックしていたのだ。
「何言ってんの! こんな面白い展開見逃せるワケないって! デウスがこの先何させたいかは知らないけどさ、多分悪いことじゃないんでしょ? そんならこの、いろはメーシャにまかせとけ!」
『良いのか!?』
「もちろん! 困った人を助けるのが番長の使命だかんね! それが地元でも、異世界でもさ」
デウスの心配をよそにメーシャは快諾。
その言葉を聞いたデウスはメーシャに全てを賭けることを決心した。
『っしゃあ!!! メーシャ、お前は俺様の見込んだ以上だぜ! じゃあ受け取ってくれ! そして、俺様に希望を見せてくれ!!』
──ドクンッ。
メーシャの周囲が一瞬脈打つように振動した後、天から伸びた光が滝のように海に降り注ぐ。
そしてその光は次第にまとまりを見せ、まるで輝く龍のような形の奔流となり、暖かな光で周囲を照らしながらメーシャを包んで一体化した。
* * * * *
一方、地上では。
助けを呼びに行った者、恐怖で逃げた者、あきて帰ってしまった者、己の無力を知り去った者、理由は様々だが、この浜辺でメーシャを待っているのはヒデヨシと釣り人のおじさんだけだった。
「なかなか上がってこないけどお嬢ちゃん大丈夫かなぁ……? なんかパワーを感じる子だったし戻ってくるとは思うけど」
そうおじさんが海を眺めながらつぶやくと、頭の上に乗っているヒデヨシが『ちうちう』と返す。
いつの間に仲良くなったのだろうか?
メーシャがタコに連れ去られ、誰か来るまで、もしくはメーシャが帰ってくるまで帰ることもできず、とは言え今何かできるわけでもないので、おじさんは海を眺めることしかできないのだ。
「ちう……!?」
そうこうしていると、ヒデヨシが何かに気付きヒョイっと砂浜に降りた。
「こ、これは……!!」
先程までさざなみ位しかたっていなかった海からボコボコと泡が浮き上がり、おもむろに眩い光が昇ってくる。
その刹那。
──グォオオオオオオ!!!
海水を巻き込みながら、巨大な龍が轟く雄叫びをあげその姿を現した。
「龍……なのか!?」
よく見るとその龍は水以外の実体はなく、目視できるほどの高濃度のオーラでできているようだ。
しかも先ほどのタコの推定体長をゆうに超えるサイズであり、それがこの地球で姿を見せているのだからその異質さは言うまでもない。
「もしかして、こっちに来る!?」
龍がこちらを見ていることに気付いたおじさんは、とっさに離れようとするが時すでに遅し。
「はやく逃げ──」
──ズドドドドドドンッ!!!
龍はダイナミックにうねりながら、おじさんのすぐ隣に砂をこれでもかというくらいぶっ飛ばしつつ頭から着地。
「──ただいまっ」
そして龍の形が霧散。その中から出てきたのは、緑のオーラをまとわせてギュインギュインと音を鳴らしているメーシャだった。
「──力がみなぎる……。これが必殺技ゲージがマックスになった時の感覚か……。なんかめーっちゃ走り出したい気分」
メーシャがキリッとした顔でつぶやく。
遊園地に着いた瞬間ちびっ子がテンションマックスで走り出すようなエネルギッシュさだ。
「おじょうちゃん! 帰ってこれたんだね! 怪我はないかい?」
「ちっちうちぃ!」
おじさんとヒデヨシがメーシャにねぎらいの言葉をかける。
「無事だよ〜! てか、むしろ元気がありすぎるってカンジ! …………まあ、それはそれとして、ふたりともなんで体が半分地面に埋まってんの?」
「「………………………………」」
メーシャ龍のダイナミック着地に巻き込まれたものの、ふたりは無事だった。ただ、ぶっ飛ばされた砂をもろに浴びてしまい、あっという間に半分生き埋め状態になってしまっていたのだ。
「?」
メーシャが首をかしげる。
「……ちうっ!?」
メーシャが本気で分かっていないと察したヒデヨシは、勢いよく砂から抜け出してメーシャに詰め寄った。
「ちちうちゅうち、ちぅちちゅぉちうつちう!!」
「ごめんごめん!! あーしが砂を巻き上げちゃってたの完全に忘れてたし〜!」
まるで新しいゲームを買ってもらった小学生が宿題を忘れてしまうみたいに、メーシャは自分の行いを忘れちゃっていたようだ。
「……それにしてもヒデヨシさ、めちゃ賢くなったよね。昨日までは難しいこととかよく分かってない顔してたのに。パパの注射の効果かな? そのうち言葉も話せちゃいそうだもん」
「ちうち……?」
ヒデヨシはメーシャに指摘され初めて自覚した。自身の知能がだんだん上がってきていることに。今は人の言葉を話せる気はしないが、メーシャの言う通りいつか話せたりするのだろうか?
「あ〜……ごめん。おしゃべりの練習する時間はなさそ」
メーシャは海を見て一瞥し、今までの気の抜けた表情から一変。まさに番長と言わんばかりの頼もしさと神妙さを兼ね備えた顔つきになる。臨戦体制に入ったということだろう。
それもそのはず。メーシャの目線の先には額に禍々しい赤の宝石をつけた黒く大きなタコの姿があったのだから。
禍々しい炎のようにゆらめくオーラを周囲に放ちながら、黒いタコが徐々にメーシャたちのいる浜に近付いていた。
動きこそ緩慢だが、確実にこちらを捉えている刺すような殺気と、どんどん目の当たりになるその巨体は、呼吸するのも難しい圧迫感を与えてくる。
『邪神の手下だ……。メーシャ、チカラの使い方は理解しているな?』
メーシャが地上に戻るまでの間にチカラの使い方はもちろんのこと、デウスは邪神が世界征服を企んでいること、自分が邪神に負けたこと、身体を構成する核やチカラの源となる宝珠を奪われたこと、そしてゆくゆくはこの地球も侵略するつもりだということをつたえていた。
「そだ! ちょうど良いしここでちょっと試してみるか」
メーシャはそう言うと全身に意識を集中し、心臓から全体にエネルギーが広がるように意識する。そして、身体をおおう膜を突き破るようにエネルギーを体外に押し出すと、身体全体から蒸気が噴出するように深緑のオーラが放たれた。
「んで、このオーラを目に集中して……ロックオンでしょ?」
急ぎつつも工程を丁寧に確認していく。
「え……! もしかして今何かされてる!?」
違和感に気が付いたおじさんが砂の中で慌てている。
「あっ……やば! おっちゃんまでロックオンしちゃダメじゃん」
メーシャの視界では、おじさんと周囲の砂を立体ホログラムで覆うように対象選択が視覚化されていた。
「だいじょぶだいじょぶ! 心配しなくてもうまくやるから」
メーシャは慌てるでもなくマイペースにおじさんにかかっていた判定を外し、次にオーラで大きな手を作り自分の腕にまとわせて動きをリンクさせる。
「準備完了からの………………奪い取る!!!」
大きく振りかぶってオーラの手をおじさんの方へとぶつけるメーシャ。
「す、すごい!」
すると、おじさんの周囲の砂がその場から瞬時に消え去り、できあがった大きなくぼみの中心に開放されたおじさんが姿を現した。
もちろんおじさんは無傷である。
「おお、イイカンジじゃん! ……それに、アイテムボックスだっけ? その中に砂があるのが感覚で分かる」
『だろ! 俺様が数百年かけてアップデートしていったからな。必要なものはアイテムボックス内にあれば頭に浮かぶようになるし、欲しいものがありゃ瞬時に種類と数を選択して出せるように設定しておいたんだよ! ああ、違いを分かってくれるか。くぅ〜、やっぱメーシャで良かったぜ』
デウスは自身のアイテムボックスが褒められて唸るように喜んでしまう。めちゃくちゃ自信作のようだ。
『ああ、〜異空間⦅アイテムボックス⦆ができるまで〜 を詳しく語りたい! でも…………メーシャ、ヤツが到着したようだ』
タコが上陸していた。
空気全体が感電しているような緊張感が走る。並の人間なら微動だにできないだろうが、チカラを手に入れたメーシャにとっては程よい刺激でむしろ身体が軽やかになる。
「ちうっち!」
「あ、そうだね。おじさんたちも避難しておこう!」
ヒデヨシとおじさんがメーシャの邪魔にならないよう急いでこの場から離れていく。
もしかするとこのふたりも大物なのかもしれない。
「おわっと!」
刹那。音速を超えたスピードで伸ばされたタコ足がメーシャの頭部を狙う。
『メーシャ大丈夫か!?』
「番長をなめんな!」
しかし、メーシャは最低限の移動をして髪の毛一本分の距離で回避。そして一瞬の内に片手にオーラの手をまとわせてタコ足が伸び切る前に掴みとる。
「そんな離れたところにいないでさ、もっと近付いて戦おうぜ!!」
メーシャがタコ足を掴み引っ張りながら飛び上がると、その勢いとパワーでタコのズッシリとした巨体が浮かび上がる。
「うぉおおおりゃあああ!!!」
タコが空中でもがくのもお構いなしに、メーシャが力いっぱいに放り投げる。
──ドゴ!!!!
タコ足が途中でもげる程の威力の投擲は、タコがなす術なく防波堤に激突するのをゆるし、ぶち当たった防波堤もその衝撃で轟音と共に砕け散らせてしまった。
「──そういえば、あんたら世界征服をするつもりなんだって?」
メーシャはふわりと地上に降りネクタイを外す。
握られたネクタイは緑色の粒子となり姿を消した。アイテムボックスへと送られたようだ。
「──でも残念。邪神だかなんだか知らないけど…………番長がこの戦うチカラを手に入れた今、その野望は永遠に叶うことはなくなったよ!!」
メーシャは世界の危機をデウスから聞いた時は、家族や友達に色んな知らない人が危険にさらされるなんて放って置けないと言う気持ちと、異世界に遊びに行けるのと半々くらいだった。
だが、反撃を喰らい臨戦体制に入った邪神の手先が放つ邪気を見れば話も変わってくる。木々は生気を失っていき、砂も地面も近くの少し離れた海すらも毒々しく黒ずんでいくのだ。
これを放っておけば地球は滅びる。人はもちろん他の生き物も生きていけない。
物質が、細胞が、恐怖でその場に留まることが耐えられない。禍々しく害のある存在。
それが、世界征服をたくらんでいる。それが、メーシャがこれから相手にする相手。
「ふんっ。そんな睨みつけてきても、あっさりタコ足一本無くしちゃったヤツまったく怖くないもんね〜」
軽い口調なメーシャだが、決して油断しているわけではない。注意を自分に向けて周囲への被害を最小限にするための作戦だ。
──ギロッ。
作戦はひとまず成功。タコはメーシャを完全に標的とみなしたようだ。
邪神の手下のタコは先ほどメーシャに投げられた時、タコ足が一本ちぎれて無くなっていた。
しかし、周囲にちぎれてしまった足の先は見当たらない。しかもなくなった原因である相手が挑発してくるのだ。プライドの高いタコは、もう正面から全力で叩き潰さねば気が済まない。
「──まあ、そのタコ足って実はあーしが持ってんだけどね!」
メーシャが手のひらを広げると淡く光を放つ円陣が浮かび上がる。
その円陣は星、翼、王冠、そして尾を喰む龍の形を浮かび上がらせてウロボロスの魔法陣へとなった。
次にメーシャが魔法陣に手をかざすと、中からちぎれて無くなったはずのタコ足が、メーシャのものへと変わってしまったタコ足が、元々の主であるはずのタコを裏切ったタコ足が姿を見せる。
激怒。
タコの額にある赤い宝石がドス黒い赤の邪気を吐き出し、同時にタコ自体の体にも同じ色の幾何学模様が浮かび上がる。
冷静さを失っていた。いや、手放したのだ。
タコは邪神やサブラーキャの命でウロボロスを滅さなければならないが、もう後のことを考える気にはなれなかった。ここまで己を侮辱するものを放っておけるはずがない。全力をだして力が尽きようとも目の前の相手を消し去らなければならない。
今この戦いに全てをかけるつもりだ。
周囲に放たれた邪気は木々や防波堤、電柱に柵、全てを飲み込んで塵へと変えてしまう。
「──くっ! 気迫みたいなのだけで威力高すぎでしょ!!」
メーシャはオーラで自分をおおって結界を作るが、あまりの威力にすぐにひび割れてしまった。完全に割れてしまうのも時間の問題だ。
「まあ……負けないけどね!!」
メーシャは邪気の波が来る一瞬の隙に移動、波動の隙間を縫いながら距離を詰めた。
そして、自分のタコ足にオーラを集中させて、タコの頭に思い切り打ちつける。
──キィイイイイイイン。
タコが咄嗟に出した邪気の盾が攻撃を寸前のところで防いでしまう。
タコも負けじと攻撃に移るべく、頭の横の隙間から銃身のような漏斗を出し、邪気を瞬時に充填してメーシャに狙いをつけた。
「──ガードだ!」
撃たれる直前にメーシャはふたたび結界を張って身を守る。
──ギュイイイイインン!!!!
銃身から赤黒いレーザービームが射出され、メーシャの結界をあっという間に粉砕。だが、タコの攻撃はここで終わらず、次に同じ銃身からタコ炭と邪気でつくられた高濃度の砲弾をマシンガンのごとく連射。
「ちょっ、これって煙幕か!?」
タコ足で攻撃は防げたものの、着弾した砲弾は黒い霧のように視界を奪ってしまう。
「見えなくしてガードできてない時に攻撃する気か! って、ボロボロじゃん」
メーシャは風で吹き飛ばすべくタコ足を振ろうとするも、砲弾を受けたせいか粉々に崩れてしまう。
「しゃーない。……じゃあ全部奪ったげるし!!」
魔法陣を前方に展開。視界を奪っていたタコ炭の霧が、メーシャの出した魔法陣にどんどん吸い込まれていく。
「っし!」
全ての霧を吸い取って視界が完全に開ける。が、その一瞬の隙をタコは見逃さなかった。
銃身に今までにない量の邪気を充填して、メーシャに目掛けてロケット弾型の邪気を撃ち込んでしまう。
────爆発。赤い衝撃波が刃のように空気を薙いで広がっていく。焼けこげた塵がパラパラと降り落ちていく。
手応えはあった。当たったのも確認した。もちろん結界が出ていないのもだ。
……確信。タコは勝利を確信しウロボロス討伐に戻るべく、周囲に電波を放ってウロボロスの反応を探す。
『メーシャ……? メーシャ!? 嘘だろ…………チカラが足りなかったのか?』
デウスもメーシャの反応を失い絶望してしまう。大丈夫だと確信したはずなのに、それはただの慢心だったのか? そう思うとデウスは気力を失い、もう何も考えられなく………………なろうとしたその時!
「────!!!??」
その反応を感知しタコは慌てて振り返る。あり得ない。敵の反応は消えたはずだ。確実に仕留めたはずだ。確信していたのだ。しかし──。
「──隙あり」
声と同時に足が半分消え去る。だが姿は捉えた。そして、なぜその反応が消えたのかも理解した。
「あんたの攻撃はもう読めた。ここから全て、あーしのターンだからね……!」
緑色のオーラが黄金へと変わり、太陽のごとく神々しく空中で輝くメーシャの姿がそこにあった。
そう、メーシャ自身が消えたのではなく、オーラが進化して別次元の反応へと変わったのである。
「あんたの攻撃はもう読めた。ここから全て、あーしのターンだからね……!」
タコの攻撃を受けて一時はやられてしまったかと思われたメーシャだったが、黄金に輝くオーラを放ち無傷の状態で姿を現した。
『メーシャ生きてたのか!? 怪我もないみたいだしマジで良かったぜ……』
デウスがメーシャの姿を見て安堵の声を漏らす。が、すぐに違和感を覚えて考える。
『……ん? 俺様こんなチカラを渡した覚えはないぞ。この地の守護者の皆さんから貰ったのも、エネルギーだけで特殊能力はもらってないし。龍脈のチカラと俺様のチカラが共鳴した……とか? それとも相性が俺様の想定以上だったのか、もしくは別の誰かが干渉してる可能性も……』
色々可能性はあるものの答えは出てこない。少し引っかかる気もするが、見たところ悪意のようなものは感じられないし、メーシャへの害も見たところ一切ない。
干渉されているとして、誰かの思惑はあるにせよ今この瞬間は協力関係にあるはずだ。もし何かあるのだとしても、最悪自身でなんとかすれば良い。少なくとも今はメーシャを怪我なくこの戦いを終わらせて、世界を救うためにも異世界へ送ることが最優先だ。
デウスはそう結論を出し、ひとまずは様子見しつつメーシャを応援することにした。
『メーシャ、頑張ってくれ。俺様はお前が勝つと信じてるぞ……!』
「あんがとね、デウス。どーやら時間制限ってか、この金ピカなチカラは一時的っぽいけど、多分勝つまでは切れないと思う。まあ、まず負けることはないよ」
メーシャはゆったりと地面に降りる。その姿は『降臨』という2文字が相応しかった。
つまり、なぜかメーシャは一時的に龍神と近しい領域にまで達しているのだろう。
「…………」
タコは己を照らす光に嫌悪しながらも、下手に動けば一瞬で負けることを察し、静かにメーシャの出方を伺うことしかできないでいた。
「初めはタコ足目当てだった……」
メーシャが着陸すると浜の砂があまりの温度に一瞬で赤熱して融解する。今のメーシャがまとう光の温度は少なくとも数千℃以上。
どんどん沈み込まないのはメーシャが足を少し浮かせて飛んでいるからだろう。
「そう、たんなる偶然。でも、地球を侵略するって知ったら放って置けないよね。異世界だってそう。これからあーしにとって大切な仲間や友達になるかもしれないヒトが住んでんの。だから、今ここで世界征服を辞める気がないなら、あんたも邪神もその他の手下もみんな…………このいろはメーシャが許さない!!」
メーシャの背中から黄金の魔法陣が顕現する。
先ほどまでの魔法陣ではない。それに加えて対である月と三叉矛と蓮が描かれた魔法陣、そしてそのふたつを囲んで世界樹のような紋様になった大きなひとつの魔法陣へと変化していた。
「っ…………!!」
あまりの気迫に思わず痺れを切らしてしまったタコが乱雑に足で薙ぎ払う。
「当たらないよ」
だがメーシャに攻撃は届かず、しかもいつの間にか背後に移動していた。
そしてゆったりとした所作でメーシャは片手をかざし、
「ふん……!」
先ほどタコが使っていたスミの砲弾を連射する。しかし、その威力も速さも格が違う。
「──!?!?」
とっさに結界を張るものの砲弾は容易に貫通してしまい、全弾をもろに受けてしまったタコは身体がボロボロに。
次にメーシャはタコ足を魔法陣から呼び出しつつオーラの弾を生成。タコ足で弾を思い切りはじいてタコに容赦ない一撃をおみまいする。
「────!!」
弾を受けたタコは高速で吹き飛ばされてしまうが、メーシャはまたも一瞬の内に背後へと回って思い切り蹴り上げてしまう。
──ギロリ。
上空へ打ち上げられて一瞬攻撃が止まった隙にタコは残りの足を四方に展開し、メーシャを捕まえるべくドーム状の強い結界を作り出した。
「おっと」
ドームの内側にメーシャが閉じ込められたのを見たタコは急いで着陸し、正真正銘自身の持てるチカラ全てを銃身に込めて最後の攻撃へ移る。
「無駄だよ。言ったでしょ、全てあーしのターンだって」
メーシャはドーム状の結界をシャボン玉でも割るように軽々と破壊してしまう。
「────……!」
邪気の充填完了まであと少しかかる。
「大丈夫、待つからさ。撃ってきなよ。あーしは正面から受けて立つから」
メーシャはタコの攻撃準備の邪魔をせず、その場で息を整え、片足を後ろに下げて回し蹴りの準備を始めた。
タコはメーシャの行動に対し怒りに震えながらも、グッと堪えて最大出力になるよう努める。
そしていくらかの時間が経ち…………その時が来た。
「──っ!!!!!」
射出されるレーザーはこれまでの比ではない威力であった。そしてとどまるところを知らず、瞬く間に宇宙空間まで達するほどの速度もあった。まさに必殺の攻撃といったところだろう。
当たれば生物も無機物も滅び、塵となって消え失せる。空気は毒を持って瘴気となり、大地は命を奪う死神のような存在となるに違いない。
刹那、レーザーがメーシャに直撃し、スペック通りそのまま宇宙空間まで突き抜ける。が、何かがおかしい。
「あんたの全力を打ち破る……!」
メーシャには通じていなかった。なぜなら、黄金のオーラが邪気を浄化して生命力に変換していたのだ。
生命力に変えられたレーザーは輝く粒子となり、その全てがメーシャのチカラになっていく。
「覚悟しろ! ────ジャッジメントサイスッ!!!!!」
至高のエネルギーをまとったその回し蹴りは、未だ向かいくるレーザーを切り裂いて邪神の手下に裁きを下した。
「──っ!?」
タコは己の体が崩壊していくのを悟る。完全なる敗北。
邪神に植え付けられた邪気が全て生命力へと変換され、ジャッジメントサイスの天まで届くその大爆発とともに周囲に広がっていく。
「あ、ちょっ!? やりすぎた?!」
攻撃を放ったメーシャですら驚く余波の爆発は周囲数キロに渡るほど。
『──ったく、せっかちだな。落ち着いてみてみろ……』
デウスが穏やかな声でメーシャをさとした。
「えっ……?」
光がゆるやかに落ち着いていき、ふたたび世界がその姿を見せた。
いつの間にかメーシャがまとっていた黄金のオーラも消えている。
「元に戻ってる……? きれいに戻ってるよデウス!!?」
メーシャが破壊しちゃった防波堤も、タコが邪気で焼き尽くした木々や塵となった電柱なども全てがきれいに元通りになっていた。
『お前のチカラだ。……最後の一撃で放たれた生命力が、戦いによって傷つけられたこの場所を修復したんだ』
「そっか。……そっか! あ、でも生き物は? 流石に生き返らせたりとかは……」
『ふんっ、心配すんな。俺様が人間はもちろん小さな生物も一時的に避難させておいたからみんな無事だぜ』
デウスは継承の時に使わず残しておいたエネルギーを使い、生物たちをアイテムボックスの予備空間に転送させていたのだった。
「じゃあ……!」
メーシャは目を輝かせる。
『完全勝利だ!!!』
「やったー!!!!!」
柔らかな優しい風がメーシャを包んだ。
メーシャは邪神の手下を圧倒的なチカラで倒すことができた。
その相手は邪神軍の幹部サブラーキャがこの地球でミズダコを変異させて作った傑作であり、新しい幹部候補であり、この地球侵略とウロボロス討伐のリーダーを務めるはずであった。
ゆえに、タコ撃破により邪神軍の作戦は初めて失敗。邪神軍は一時どよめいてしまう。
だが、それを予見していた邪神ゴッパが対メーシャに向け着々と準備を進めていたのもあり、地球侵攻作戦が大幅に遅れがでたものの、兵士増強は順調で異世界侵攻への準備も完了間近、メーシャが持つウロボロスのチカラのデータも回収。それに伴い新たな作戦も開始する運びとなったのだった。
「──ただ、あの黄金のチカラが腑に落ちぬ。ウロボロスの動向は把握していた……。あの地でかようなチカラを手に入れた様子は無かったが、他にも協力者がいたのか? それとも、あのいろはメーシャが元々持っていたのか? くくく…………まあいい、いくらでも相手してやろうではないか。時間はいくらでもあるのだから…………」
ゴッパは揺るぎない勝利をおもい仮面の下で静かに笑うのだった。
* * * * *
「──じゃあ、あの釣りのおっちゃんは帰っちゃったんだね?」
「ちうちう」
釣り人のおじさんと一緒に遠くに避難していたヒデヨシは、戦いが終わってからメーシャの元へひとりで戻ってきた。しかし、おじさんはメーシャが元気そうなのを遠目で確認した後ヒデヨシと別れて帰ってしまったようだ。
「メイワクかけちゃったから、ごめんなさいとありがとうをしときたかったんだけどな」
『知り合いじゃねんだろ? 近くにはもう反応も無いし、手がかりも無いし、また偶然出会えるまではおあずけだな……』
デウスはメーシャにチカラを継承したり、先の戦いで動物や人間を避難させるために転送したりしてエネルギーのほとんどを消費していた。なので本調子とはいかないが、ひとりぶんの反応を探すくらいなら半径数kmくらいの探知を使えるのだ。
それでも見当たらないということは、おじさんは比較的早い段階で車か交通機関を使って帰ってしまったのだろう。
「うん、そうしよっか。これから異世界だし」
そう、メーシャはこれから異世界で暴れている邪神軍を倒しに冒険に出なければならない。
「ちううっち、ちゅーちゅう」
『ああ、それもそうか。じゃあ一旦メーシャの家に転移ゲートをつなぐか』
デウスはヒデヨシの言葉がわかるようだ。
ちなみに転移ゲートとは、現在地と違う場所をつなぐ魔法で作ったワームホールのようなものだ。
「あっ忘れてた。確かにしばらくお家から離れるならお泊まりセットとか、水とか非常食的なのとかも必要だし、パパとママにも挨拶しとかないとだね」
チカラのおかげなのか、メーシャも理解しているみたいだ。
『っし、ゲート開いたぞ〜』
うずを巻いた先の見えない穴のようなものを、デウスはさらっとメーシャの近くの空間に出現させる。これがゲートだ。
「じゃあ、お家までしゅっぱー……」
「──ま、待ってくださ〜ぃ!」
メーシャがゲートに飛び込もうとした瞬間、少し離れたところから女の子が呼び止めてきた。
「ちう?」
メーシャと同じ学校の生徒のようで、よく見るとその手には見慣れたケースが抱えられていた。
「……あ、ヒデヨシのケース置きっぱなしだったみたい」
その女の子は忘れ物を持ってきてくれたようだ。
「……ぜぇ……はぁ……ぜえ……こ、これ。……あっちの方に……置かれてて、もし……あっ! 憶えてたんならごめんなさいっ!」
女の子は緊張しているのか全力疾走して疲れているのか、言葉に詰まりながらもなんとか事情を説明しようとする。
「でも、いせか…………あっえっと、どこか! どこかに行くって聞こえたので、番長さんが万が一忘れてたら……と思って」
言葉を濁したが、メーシャが異世界に行くことが聞こえていたようだ。まあ、メーシャの声は大きいし実はデウスの声も周囲にダダ漏れなので聞こえていても仕方ないのだが。
「あんがとー! えっと、隣のクラスの樹ちゃんだっけ? 持ってきてくれなかったら確実に忘れて無くしちゃうとこだったよ。マジ助かったし〜」
メーシャが樹からケースを受け取ると、流れるように魔法陣を出現させてアイテムボックスを収納してしまう。そもそも隠す気がないのかもしれない。
「あっはい。日陽樹です。気付けて良かった……です」
樹ははにかみながら頬をかいた。メーシャにお礼を言われて嬉しくなってしまったようだ。
余談だが、樹はスポーツは苦手で黒髪のボブで太ブチ眼鏡をかけた物静かなタイプで、活発なタイプなメーシャとの間に特別関係は無く今までも学校行事やすれ違った時に何度か話した程度。
ただ、メーシャはトラブルに首を……もとい、困ってる人を放って置けないので学校内外問わず頼りにされていたり、体育大会で一年生なのに上級生をさしおいて無双していたり、不良学校にひとりでカチコミに行ったりと、学内で知らない人はいないレベルの有名人。
なので、樹もそうだがメーシャに憧れる生徒も少なく無いのだ。
「まあ、そういうわけだからそろそろ行くねっ。たぶん大丈夫だけど、樹ちゃんも気をつけて帰るんだよ」
メーシャはそう言うと、ヒデヨシを肩に乗せて何のためらいもなくゲートに飛び込んだ。
『メーシャってば何かと順応するの早くね? 転移魔法とか初めてじゃ無かったりする?』
「うん。空を飛んで転移とか、魔法陣と魔法陣の移動とか、明かりを灯してそこに移動とか、何万回とやってきたからね。慣れたもんよ!」
『やっべー! メーシャぱねえよ!!』
デウスは割と本気で訊いていたのだが、もちろんメーシャが言うところの転移はゲームでのことである。
「……ありがとうございます。えと、番長さんもお気をつけて……!」
徐々に姿が見えなくなっていくメーシャに手を振って見送った。
「魔法って本当にあるんだ……。異世界とか転移とか言ってたし、謎の声も聞こえてきたし……。なんならさっきも、人間離れした戦いもしてたもんね」
樹は抑えきれない高揚感に包まれながら、ポケットの中から『ぜったい見るな』と書かれている小さなノートを取り出す。
「パンダもゴリラも初めは未確認動物だったし、地球も平たいと思われてた……。空気の流れを利用して鉄の塊を飛ばせるようになったし、幽霊だって電気信号を内包したプラズマ体だって説を聞いたことあるし、人工太陽を作るのも理論上不可能ではないというところまできてるらしいし」
樹がノートを開くとそこには可愛らしいタッチの2頭身のキャラと色々な魔法のイラストが描かれている。
「人間が想像できることは人間が必ず実現できる。じゃあ、魔法だって理論が確立できれば……!!」
樹は小さい頃魔法に憧れていた。いや、今までも心にしまっていただけで、1日だって忘れずに魔法を使うことをずっと夢に見ていた。だから、樹はこの日のことを絶対に忘れないだろう。
高揚感も熱意も、目に焼き付けた光景も全て。
「ふふっ。家に帰ってまずは歴史書から洗っていこうかな!」
樹はノートを胸に抱きしめ、ルンルンで家に帰っていくのだった。
とある都市の86階建ビルの最上階。それがメーシャの住む家である。このビルに住むのは国の有事に特殊な研究を行う研究者たちであり、政府公認の最高セキュリティを有し、地下から研究所へ続くリニアまで通っているやべー所だ。
建てられて以来一度も侵入者をゆるしていないのはもちろん、スパイもお手上げで、居住者や選ばれた客人以外近づくことすら不可能なほど。
そして、メーシャは憂なく異世界に行くため、両親への事情説明と旅の準備のため転移ゲートで直接一度家に帰っていた。魔法の前ではセキュリティも形無しだ。
「──っていうカンジ」
両親は家に居たもののママは何やら電話で忙しいらしく、テーブルをはさみパパに今日の流れを説明するメーシャ。
もちろんチカラの事やデウスについても伝え、デウス自体も自己紹介を済ませてある。
「──世界を救うため異世界に行く……ね」
パパは始終険しい顔で話を聞いていたが、メーシャを危険にさらすのが嫌なのだろうか。メーシャたちが見守るなか少しの沈黙が流れ、パパは小さなため息を漏らした後口を開いた。少し力のこもった落ち着いた声で。
「ヒデヨシを連れて行きなさい……!」
「『えっ?!」』
まさかの言葉にメーシャとデウスが素っ頓狂な声を出してしまった。とうの本人……本ネズミであるヒデヨシは分かっていたのか『うんうん』と頷いている。
「ふふっ……。分かっているさ、こんなに可愛らしいネズちゃんに何ができるの? って考えはね」
パパは得意げに眼鏡をクイクイっと上げた。
余談になるがパパは仕事が多忙なのか、それとも気に入っているのかほとんど一年中白衣を羽織っている。
「それはまあ、そう。……ヒデヨシに打った注射が関係してるってこと?」
「そうだ。ヒデヨシは昨日までのかわいいだけのネズちゃんじゃない。まあ、元から他のハツカネズミと比べたら賢者相当の賢さだったが……それはそれとして。ヒデヨシはメーシャの言うとおり、パパの打った注射によってひとりでに進化を遂げたんだよ」
パパは実はメーシャに内緒でオヤツをあげたり一緒のベッドで寝たりするほどヒデヨシのことが大好きなのだ。
だからこそ、メーシャは疑問に感じてしまう。
「すごくなったのは分かるけどさ、ヒデヨシに実験しないって言ってたのになんで注射したの?」
そう、パパは自分の研究のために家族を犠牲にする人ではないはずなのだ。
「それはね……」
──バタンっ!!
パパが口を開こうとしたその瞬間、リビングのドアが勢いよく開き、そこから王様みたいなコスプレをした金髪の女性が現れた。
「説明しよう!」
ニッコニコで登場したこの女性こそメーシャのママである。ちなみにママはコスプレが大好き。
メーシャが小さい頃家族3人で撮った写真も、ママが勇者でパパが魔法使い、メーシャが僧侶のコスプレをして挑んだほど。
「ママ! メーシャに言って大丈夫? 一応機密事項なんだけど」
パパが心配そうにママに尋ねた。
パパやママが研究しているのは最高機密のもので、家族といえど口外すれば行方不明になりかねないもの。
「話はつけてきたよ!」
ママは研究所の所長なのでお偉いさんと直接交渉できるのだ。しかも、すごい情報網を持っており、話に参加していないにもかかわらずメーシャの話はひと通り伝わっている。
「じゃあ、詳しくは書類にまとめてるから、ここでは軽く説明しちゃうね」
分厚い紙の束をメーシャに渡すと、ママはパパの隣の椅子に腰をおろして説明を始めた。
メールじゃないのはハッキング対策。
パパママのしていた研究とは、実は邪神軍が実験に使っていたというウイルスのことだった。
そのウイルスに特定の電気信号を送ると取り憑いた宿主の身体を変質(ミズダコがメーシャの戦ったタコの怪物に変わったように)させたり、ある周波数から放たれた命令に絶対服従になってしまうというもの。
そのウイルスによって変化させられた地球の生物(邪神軍の実験途中のものだったのか危険は少なかったが)世界各地で見つかったことでパパママたちは研究することになったのだ。
「それで、どうヒデヨシに関係してくるの?」
メーシャが首をかしげる。研究のことは分かったし、邪神軍がより放って置けない存在になったのは分かったが、まだヒデヨシに注射した理由は不明なままだ。
「ちうちうちい」
そこでヒデヨシ真剣な面持ちで言う。
『ヒデヨシが注射してくれって言ったんだな』
デウスはヒデヨシの言葉が分かるのだ。
「そう、初めはママも断ったんだけどね。危険な研究だったし、万が一なんてことは絶対に嫌だったから」
「ちうちう。ちゅうち?」
ヒデヨシはデウスに通訳を頼み、ママとパパと一緒にメーシャに説明をした。
それによると、半年前……つまりデウスが地球にやってきた時、デウスの他に禍々しい恐ろしい気配が来たのをヒデヨシは感じたようだ。だが、家族はもちろん他の人間やほとんどの動物が気付いていなかった。
日に日に強まる禍々しい気配にヒデヨシは危機感を覚えてパパやママに相談。もちろん、当時ヒデヨシに人の言葉を伝える手段はなく失敗に終わったが、それでも諦めずヒデヨシは毎日かかさず伝え続けた。
数日が過ぎた頃、ヒデヨシはパパの研究机にウイルスのサンプルを見つける。
そのサンプルはまだ禍々しいものだったが、なぜか少し安全な匂いがしたのだ。
パパママたち研究者は、そのウイルスを無力化や命令に絶対服従してしまう事の対策、身体の変化のコントロール、それらを可能にするようウイルスのナノマシン化などを研究していて、ヒデヨシが見つけたのはその試作品の入った試験管であった。
ヒデヨシはその試験管の前でジェスチャーをして『自分に使って欲しい』とパパとママに頼みこむ。これがあればあの恐ろしく禍々しい気配を出す存在に対抗できると思ったからだ。
しかしママが断固拒否。そう、家族にそんな危険な事をゆるせるはずがない。
だが、ヒデヨシの意思も強く、断られたからといって引き下がらず、むしろ今までより増して熱心に頼み込んだのだった。
「ずっと諦めずにお願いするヒデヨシを見て、本気で頼んでるのは伝わってね。でも、とは言え実験や危険に晒したくはないから、完成品なら良いよ。って」
完成品とはつまり、何の不確定要素も無く完全にコントロールができ、命令に染められる事なく己で意思決定ができ、周囲のウイルスを無力化し、己もその悪影響を受けず、暴走もなく、宿主の意志で変化し何のデメリットも無く元の姿に戻れるという、まず奇跡でも起きない限り実現不可能なものだった。しかも、それを生物実験を行わずにである。
「すご……それが完成しちゃったんだ」
メーシャが思わず感嘆の声を漏らした。
「そうだ、すごいだろ? だからスーパーなんだ。それで、数値や結果に間違いがないか研究所総動員で初めから何度も見直して、今朝ようやく許可がでたんだよ。まあ……ためらいがなかったと言えば嘘になるが、何よりヒデヨシの願いだから叶えてやりたかった」
パパとしては完成して嬉しいような、むしろ完成してしまって悲しいような複雑な感情であったが、ウイルスを改造してできたその完成したナノマシンは自信を持って安全と言える代物であるのは事実だった。
「本当はパパかママが対象になりたかったんだけど、どうやっても人間では数値が安定しなくて。それに、完全機械化しようにも難航してしまってね……」
今日、禍々しい反応が一段と強くなり、邪神軍のタコが出現。間に合わなかったのだ。
「今後メーシャやヒデヨシの役に立つはずだから研究は続けるつもり。もし何か困ったことがあったら教えてね」
ママは優しくそう言った後ゆっくり立ち上がった。
「つまりヒデヨシがいれば、邪神軍と戦う時に協力できるから連れて行けってことか。……わかった。注射もヒデヨシの意思みたいだし、あーしから言うことはもう無いかな。あんがとママ、パパ」
メーシャも納得したのかスッキリした顔で立ち上がる。とうとう異世界に行くようだ。
「……無理はするなよ。これ、パパとママの特製お弁当だ。お腹が減ったら食べなさい」
パパは子供たちの旅立ちに感極まって少し泣きそうになるも深呼吸をしてなんとかこらえ、いつの間にか用意してあった重箱をキッチンから取ってきてメーシャに渡した。
『メーシャ、準備はできてんのか?』
「大丈夫。さっき全部アイテムボックスに入れたから」
メーシャは帰ってきて部屋に入るや否や魔法陣を展開。『考えんのめんどいな』と言いながら家具ごと部屋にあるものをまとめて全部吸い込んでしまったのだった。そして流れるようにキッチンに行ってエゲツない量の水をアイテムボックスに入れていた。
ちなみに帰る途中である程度の保存食やすぐに食べられそうなものは買ってあるので準備は万端だ。
『っし。……じゃあゲートを開くぞ』
「……うん」
メーシャは部屋の隅に開かれた転移ゲートを見つめる。
まだ見ぬ世界、新たな出会い、想像もできない発見を思えばワクワクが止まらない。でも同時に両親や友達、見知った世界との別れ、想像もできない危険や苦しみを思えばなかなか足が前に進まない。
「…………メーシャ」
そんなメーシャの背中にママが声をかける。
「ん?」
メーシャが振り返ると、ママが神妙な面持ちで立ち、その後ろで慌てて西洋の重装鎧を装着しているパパの姿が目に入った。
「勇者メーシャよ、旅の支度ができたようだな」
「──あっ。……はい、陛下。ぬかりありません」
意図に気付いたメーシャはそう言いながらひざまずく。
ゲームでよくある王様や城のものたちが勇者を見送るシーンだ。ゲーム好きなメーシャへ両親から最大限の祝福である。
「では仲間のヒデヨシとデウスとともに、邪神を倒すため世界を救うため、英雄たちよ旅立つのだ!!」
「皆、武運を祈る。信じているぞ……!!」
ママ王様に引き続き、騎士パパがメーシャたちに激励を送った。
「必ずや邪神を倒し、全員そろって無事に帰還するとここに約束します……!!」
涙が出てしまいそうになるのを大きな声で吹き飛ばし、メーシャは旅立ちを固く決心した。
「ちう!!」
ヒデヨシも負けじと声を張り上げる。
『俺様まで……。へへっ! 陛下の仰せのままに!』
自分も仲間の一員としてカウントしてくれたことが嬉しくなったデウスはノリノリでそう答えた。
「……ママ、パパ、ありがとね」
メーシャはボソッと呟いて息を整えると立ち上がり、送り出してくれる両親や思い出の詰まった部屋、これから旅を共にする仲間や力のこもった己の手のひらを順に見つめる。
もう歩みに迷いはない。
「──満を持して……! 勇者いろはメーシャは! これより救世のため…………異世界へ出発するっ!!!」
────こうして世界と世界、時間と時間をこえた勇者の物語が幕を開けたのだった…………!
メーシャたちは転移ゲートをくぐり異世界にワープしようとしていた。
ゲート内は無数の光の粒子が螺旋を描くように移動しており、その中央にトンネル状の道がある。そして一度入ってしまえば基本的に自動で目的地まで運んでくれる。のだが……。
「およ、どうなってんだ……?」
いつの間にかヒデヨシの姿が見えなくなっている上にデウスの気配まで感知できなくなっている。
しかも光の粒子は移動せず停滞しており、道もトンネルではなく球体のような形状に変わっていた。
「……もしかして敵の襲撃!? じゃあ、お望み通り相手してあげる!!」
戦闘体制に入ったメーシャは体に即座にオーラをまとわせる。
オーラの色こそ緑になってしまい黄金ほどの出力や能力ではないが、戦闘経験を得てコツを少し掴んだメーシャはあの時の7〜8割くらいの強さは出せるようになっており、タコと同程度なら問題なく圧倒できるはずだ。
『──その必要はない』
「わっ?! オーラがかき消えちゃった……」
謎の声がした途端メーシャのオーラが消えてしまい、新たにオーラを出すこともできなくなってしまった。
『……心配しなくてよい。わたしはそなたと同じ世界を守らんとする者。先のたたかいではわたしのチカラが役にたったであろう?』
謎の声が言うところによると、タコとの戦いで使うことができた黄金のオーラや破壊された土地の修復はこの者によるチカラらしい。
味方であるかは置いておくにしてもメーシャのオーラをかき消したり、デウスの作った転移ゲートに細工してメーシャを他の者と切り離したりできる謎の声の主はただ者では無いはずだ。
「……正直に言うとアレはすごかったし。むしろあの状態で負ける方が難しいし、なんならタコ100体来ても勝てるんじゃないかって思うくらいチカラがみなぎってきたもん」
100体はテキトーだが、メーシャは実際にタコが複数体相手だったとしても倒し切る実力があった。
『ふふっ……。わたしがチカラをかさずとも勝てたかもしれぬが、あっとう的チカラを見せつけるひつようがあったからな……!』
声の主は嬉しくなったのか思わず笑いがこぼれ、その後の声も明らかにゴキゲンになっている。敵ではないのだろうか?
しかもよくよく声を聞いてみると、言葉使いは仰々しいのになんだか舌ったらずだし、声は自体も幼いし、喋り方も小学校低学年の女の子が不慣れなセリフを言っているようだし、何よりフレンドリーな雰囲気が隠しきれていない。
そう、警戒するには敵意が無さすぎるし、もしこれも作戦なら敵もそうとうクレバーだと言わざるを得ない。
「なんかの作戦かな?」
そんな声を相手に、メーシャの声もちびっ子のお話を聞く優しいお姉さんの様になってしまっている。
『そうてい以上のつよさを見せつけることで、じゃ神ゴッパはせんりょく低下をおそれて軍を動かせなくなる。そして、その勇者がすでにしんりゃくがはじまっている異世界に行けば、軍は そなたにくぎづけになり、フィオールも地球もしばらく こうげきできない じょうきょうができあがる。…………そなたにはくろうさせるがな』
声は少し申し訳なさそうに語る。
「ははっ……イイよ。結局邪神軍とはガッツリ戦うんだし、警戒して逃げられてその先で被害が出ちゃう〜みたいになるより絶対にイイじゃん」
『たすかる……。それにな、ひきつづきわが世界でもチカラを貸してやりたかったのだが、じゃ神のさくによって手が出せなくされていてな。すまないが、その時まではしばらくお別れだ』
「あっそうなんだ! 無理しないでいいからね、こっちはこっちで頑張るし、なんなら困ったら手伝うから教えてね!」
含みがある言い回しではあったが、メーシャはあえて触れずに優しく答えた。
デウスのいる方向さえ分かるメーシャの不思議センサーによると、タコの時みたいな邪悪な雰囲気も感じられないし、悪い人というか悪意を持った時特有の匂いがしないので、警戒をある程度解いて信じても大丈夫だと判断したのだ。
『────こほんっ。では、宝珠のひとつを持つドラゴン=ラードロを探すのだ。くわしくはウロボロスが知っているはずだ』
声はしばらくの沈黙の後咳払いをして、威厳がある風の声色で新たな情報を教えてくれた。
それによると、そのドラゴン=ラードロという存在が目下の敵のようだ。
「ドラゴン=ラードロ……ね。おけ、ちゃんとメモったからね」
メーシャは急いでスマホを取り出して慣れた手つきでメモアプリに記入する。これなら忘れないし間違える事もないだろう。
『メモするのえら…………あっ、えと……では、けんとうをいのる! さらばだいろはメーシャ。またその時まで……!』
「いま素が出…………ちょっ、まぶし!?」
メーシャは言葉を言い切る前に、いつの間にか元の転移ゲートのトンネルに戻されていた。
あまり触れてはいけない部分だったのだろう。
「……まあいいか。じゃあ気持ち切り替えて異世界に突入だし!」
* * * * *
少し時間をさかのぼり、ヒデヨシはメーシャよりひと足先に異世界に着いていた。
着いてまず初めにその景色や空気を堪能したいところだったが……。
『──ヒデヨシ、上だ! 気を付けろ!』
「ちう!」
少しの楽しむ間すらないままに、早々に邪神軍の襲撃を受けていた。
せいぜい分かったのはここは背の低い草が生い茂った平原ということくらい。
──ビュオ!!
風を切る音と共に突撃してきたのは、丸いスライム状の体に丸い目と口がついたモンスター"プルマル"。
ヒデヨシは難なくそれを回避して距離を離す。
敵はそのプルマルの他に別個体が10体程と、それを統率しているらしい胸に禍々しい宝石の付いた、3つの目を持つ黒いオオカミ型の邪神の手先がいた。
数こそ多いものの、メーシャの戦ったタコとは比べるまでもなく弱い存在なのは明白。それに知能もそれほど高くなさそうなのと、誰かが操っているような意思も感じられないので、大方『怪しい反応が出現したから排除する』という機械的な反応を示したのだろう。
「ちうち……?」
機械的な反応。確かにそうだ。だが、その怪しい反応というのはつまり……。
『ああ、そうだ。こいつらの目的は……ゲートの破壊だ!』
ゲートを破壊されればメーシャがここから出られなくなってしまう可能性がある。それどころか空間と空間の狭間に閉じ込められるかもしれない。
「……ちう!」
ヒデヨシは戦う決心をした。
メーシャの危機に己がチカラを示さずして、いつ示すというのだろうか。
──今こそヒデヨシ初陣の時だ。
『安心しろヒデヨシ。このゲートを狙ってる敵はコイツらだけみたいだ』
「スゥ〜…………ちうっち!」
ヒデヨシは深呼吸をして全身に力をこめる。するとじょじょに身体が赤く光り始めた。
色こそ邪神軍の放つオーラの赤色と似ていたが、ヒデヨシの光は一切禍々しさが感じられない。それどころか神々しさのようなものさえ感じられた。
「ちちうちうちう!」
背中の黒い五角形に左右対称の"ヒ"と言う文字のような模様が浮き上がり、ヒデヨシの身体能力や反応速度、体の頑強さなどが強化された。
これもウイルスの持つ身体を変質させる効果を応用したものだ。
「グルルルル……」
オオカミ型の手先……"ミツメオオカミ=ラードロ"が、ヒデヨシを脅威と判断して警戒の色を強める。
「──グルルルオオオオ!!」
ミツメオオカミ=ラードロは遠吠えをあげながらオーラを周囲に放ち、近くのプルマルに攻撃命令を下すとともに自身の強化をはかる。
「ギュピー!!」
プルマルの頭の上に刺さっていたアンテナのようなもの命令を受信。狂化状態になったプルマルは完全にヒデヨシを排除する気のようだ。
だが、標的になったからにはしばらくはゲートは安全。ヒデヨシとしてはむしろ好都合だ。
『くるぞ、ヒデヨシ!』
デウスが言うが早いか、狂化したプルマルの一体が丸呑みでもするのかというくらいの大口を開けて飛びかかってくる。
「……ちう!」
しかし冷静なヒデヨシ。落ち着いた様子で前足で手刀の形を作り迎撃のかまえ。
「──ガァっ!!」
そして、プルマルがヒデヨシに今にも喰らいつくというその瞬間。
──斬ッ!!!
手刀の先からオーラのサーベルが飛び出して刹那の内にアンテナを一刀両断。
「ギュピぇ〜!?」
ウイルスでできていたアンテナがヒデヨシの攻撃によって無効化&破壊されてプルマルは解放。
トドメこそ刺せてないものの、衝撃によってプルマルは気絶して無力化は成功した。
いや、刺せていないのではなく、刺していないと言う方が正しかった。
ヒデヨシはプルマルには敵意がなく、ミツメオオカミ=ラードロに操られているだけだと分析し解放するだけで十分と判断したのだ。
「ちうちうちゅ……!」
ヒデヨシはオーラをさらに解放し敵軍に向かっていくのだった。
「ちうちうちゅ……!」
ヒデヨシが背中にオーラを集中させていく。
ちなみにヒデヨシの日本語訳はデウスによるもので、デウスいわく『原作に忠実なのが1番』とのこと。なので口調やセリフに改変や翻訳の遊びは入っていないとのこと。
『……あっ、ヒデヨシ! 全員くるぞ!』
ヒデヨシのパワーチャージ中を狙ってか、操られたプルマルの集団が一斉に押し寄せてきた。
ただ、ミツメオオカミ=ラードロが後ろで待機しているところを見るとこの行動はあくまで様子見。ヒデヨシにダメージを与えるよりも、ヒデヨシがどんな動きや強さか測るのが目的なのだろう。ミツメオオカミ=ラードロにとってプルマルはただのコマにすぎないのだ。
「ちちうちうーちう!」
背中の模様が発光して浮かび上がると、オーラの翼に変化してヒデヨシを浮かび上がらせた。
──ギュォオオオ!!
そして、不規則な動きで襲いかかるプルマルのアンテナを、ヒデヨシは正確に、しかも瞬く間に切り裂いてしまう。
「──ちぇっちゅちうちう!」
他の敵を全て片付けたヒデヨシは、ミツメオオカミ=ラードロをロックオン。
「グルルルルル……! グオオオオ!!!」
ミツメオオカミ=ラードロは雄叫びを上げ、胸の赤い宝石から禍々しい邪気を解き放つ。ヒデヨシのことを危険だと判断し、次の一撃で即刻排除する作戦に変更したようだ。
『次に全てを賭けるみたいだぜ! 油断するなよヒデ…………っていねぇ!?』
デウスがヒデヨシに声をかけようとするが、とうのヒデヨシはすでにその場におらず。
「ちうっちう」
「グルル…………グルァ!?」
口から邪気のブレスを吐こうとしたミツメオオカミ=ラードロだったが、チャージ中にヒデヨシはふところに入り込んでしまう。
「ちゅうちちうちうち……!」
ヒデヨシは前足から放たれた閃光が赤い宝石に触れると、ミツメオオカミ=ラードロは石にでもなったかのようにその場で行動停止。
次の瞬間、内側から光があふれ出してミツメオオカミ=ラードロの禍々しい身体は破裂するように崩壊した。
「わお────んっ!」
そして崩壊した身体の中から、つぶらな瞳の2頭身オオカミが元気よく飛び出した。本来の姿のミツメオオカミだ。
ミツメオオカミは牙こそ鋭いが、一般家庭でも飼われてたりするくらいポピュラーで弱いモンスターである。ちなみに弱気で臆病なので番犬としてはあまり期待できない。
『す、すげえ! 信じてなかったわけじゃねえが、こんなにアッサリ邪神軍の手下を浄化しちまうなんて! しかも無傷! メーシャのママさんとパパさん天才か!? 天才か!! 』
戦いを見ていたデウスはハイテンションで大盛り上がり。もし身体があったら小踊りしているところだろう。
「ちうっ!?」
デウスが騒いでる間にヒデヨシは新たなスキルを手に入れていた。詳しくはまだ分からないが、"ブレス攻撃"ができるようになったようだ。
もしかすると、倒した邪神軍の性質によってナノマシンがそれに応じたアップデートをするのかもしれない。
『……いやぁ、いろは家でマジで良かった。てか俺様って恵まれすぎじゃね? メーシャのチカラへの才能はもちろん、パパさんとママさんの技術力、それを活かすヒデヨシの適応力……。最高の布陣すぎるぜ 。もう祝杯あげちまうか!?』
「──それは流石に気が早いんじゃない? そういうのは最後にとっとこうよ」
デウスがゴキゲンでぺちゃくちゃ喋っていると、たしなめつつも嬉しそうな声が近付いてきた。
「ちーちうちうちう!」
『……メーシャ!? おお、無事だったか!?』
「とうちゃ〜く! おまたせだしーっ!」
待ちに待ったメーシャの登場だ。
「ヒデヨシ大丈夫? 危ない目にはあわなかった? デウスは上機嫌だけど何かイイことでもあった?」
「ちうちう!」
メーシャの姿を見てヒデヨシは嬉しくなったのか飛び跳ねながらメーシャに駆け寄った。
『ヒデヨシってばメーシャのいない間に大活躍でな、めちゃくちゃカッコよかったんだぜ! って、メーシャはなんで遅れたんだ?』
「ああ、それはね──」
メーシャはヒデヨシを肩に乗せると、転移ゲート内で起きた事や謎の声、その声が話してくれたことを説明した。
● ● ●
『──なるほど。現段階では完全に信用できるかは判断できねーが…………まあ、少なくとも同じ敵を持つもの同士で協力関係を結びたいってのはスジが通ってるか。あのオーラも邪悪な雰囲気はなかったし、俺様としても仲間が増えるのはありがたい』
「良かった。もし敵だったら悲しいもんね。それで、宝珠とかドラゴン=ラードロってのは?」
『まず宝珠はふたつあってな。……魔法を使うのに必要な魔力や、生きるのに必要な生命力、そしてそれらの源であるマナってのがあってな。それで、そのマナを生み出してくれる"天の宝珠"がまずひとつめ』
「マナっていうのを原料にして魔力とか作られてんのね。んで、そのマナって宝珠からだけしか生み出せないの?」
『いや、マナは世界中にあって、基本的には星が生み出してることが多いな。地球もマナは生み出してたな。魔力に変換はされてないみたいだけど』
「ふーん……。じゃあ、変換さえできれば地球でも魔法が使えるのか」
『そうだ。メーシャみたいな特殊な状況でなくともな。…………それで、ふたつめは"地の宝珠"だ。これはエネルギーやチカラを制御したり、存在の定着、安定化ができる。
つまり、天の宝珠があればある程度のチカラを使うことができて、地の宝珠があれば俺様は身体を取り戻せるってわけだな。
ちなみに、どっちも強いチカラを持ってるが、ふたつが合わさればより強大で、龍神ウロボロス本来のチカラを引き出すことができるんだ』
「えっ、ちょっとまって! じゃあ、その宝珠を持ってるドラゴン=ラードロってマジヤバの強さになるんじゃね?!」
神社や龍脈などでエネルギーを増やしたとは言え、メーシャのチカラは『宝珠を抜かれたウロボロスの残滓』みたいなもの。宝珠をそのまま持っているドラゴン=ラードロと戦うのは分が悪いはず。
『……正直、マジヤバの強さなのは確かだろうな。でも大丈夫だと思う』
「ちう?」
メーシャの肩の上で話を聞いていたヒデヨシが首をかしげる。
『チカラの適合率で言えば、メーシャは俺様自身に匹敵すると言っても過言じゃねえ。どこぞの馬の骨……ドラゴンだからトカゲの骨か?
まあ、そのトカゲが俺様のチカラを制御しきれるはずがねえんだよ。どっちの宝珠を持っていたとしても大幅に出力が下がってるのは間違いない。
だから、メーシャがしっかりチカラの使い方を学んでいけば、いくら元がスナック菓子の残りカスみてーな少ないチカラでも勝てないことは無いはずだ』
デウス……ウロボロスが邪神軍と戦って勝てなかったのはあくまで邪神ゴッパだけだった。ゆえに、それに匹敵する才能のメーシャであれば幹部クラス相手にも渡り合えるポテンシャルがあるということだ。
「……そっか。じゃあ、努力不足で負けたなんてことにならないよう頑張んないとだね!」
『おっ、やる気充分だな! そんなメーシャに朗報だ。……この国の名前は"アレッサンドリーテ"。邪神軍幹部の一体、ドラゴン=ラードロの根城がある国だ……!!』
「ここが……!?」
緑が生い茂る豊かな平原、魔法のトラップがひしめく古代遺跡、多くの生物やモンスターがひそむ霊峰、結界に守られた城塞都市、そして天然の岩壁に囲まれた古城。そう、ここがアレッサンドリーテ。 メーシャたちがこれから冒険する大地だ。
メーシャたちは先の戦いでのヒデヨシの活躍の話をしながら、アレッサンドリーテ王国の首都を目指していた。さいわい、転移で到着した位置が首都近くでゆっくり歩いても20分ほどでたどりく距離。
しかもレンガ調の道路が敷かれていて、一定距離ごとにモンスター除けの光を出す街灯まで完備。
ちなみに、この街灯は地球で見るような街灯とは少し違って、ライトの所に薄紫色の宝石……魔石がはめ込まれていて、それをカバー兼光の拡散用に特殊なカットが施されたレンズがおおっている。
この街道を進めば強いモンスターをめちゃくちゃに怒らせない限り、車に乗れるタイプのサファリパーク感覚で安全にスムーズに町を行き来できるというわけだ。
「ほぇ〜。マジか、イイなー! あーしも見たかったし〜…………ぜぇ……はぁ……。疲れた……」
声こそ元気に出そうとするも、もう疲労の限界なのか息切れを起こしフラフラで歩くのもやっとだった。
「ちうちちゅううち? ちゅちうちういちちうちゅあちぃ」
戦いを経てなお、小さい体でありながらメーシャに四足歩行で並走するヒデヨシは元気いっぱいなので、ジャッジメントサイス後に地形を修復したのが予想以上に体力を使ったのかもしれない。
「そうなのかな〜。気が抜けてドッと疲れがってやつかなぁ……ふぃ〜」
『……来るの急ぎすぎたか? さっきまで元気だったから油断したな。……すまん。金ならある程度アイテムボックスに貯めてあるし、街に着いたらいったん宿に泊まるか?』
異世界は地球より侵攻が進み、被害者や行方不明者、誘拐なども出ているのでデウスとしては少しでも急ぎたかったのが本音だったが、謎の声が言うようにメーシャが活躍によって侵攻が一時的にでも止まるというなら、一晩休んで日を改めてこちらに来ても良かったかもしれない。
「それがイイかも……ぜぇ。……でも、なんか……こっちに来てからなんだよね……はぁ……」
『こっちに来てから? 何がだ……』
デウスは身体が無いので汗こそかかないが、もしあるならこの瞬間背中に冷や汗を流していたかもしれない。フィオールに来て調子が悪くなったというなら、考えたくはないがもしかすると…………この土地特有の病気だろうか?
普通、その土地に住む者ならその土地の病原菌やウイルスに免疫ができて、コンディションがそうとう悪くなければまず感染しないものでも、違う土地から来た者は免疫できていないので簡単に感染してしまう。
ヒデヨシはネズミだから耐性が違い、調子が悪くなっていないのもなんらおかしくない。
デウスは戦々恐々としながらメーシャの言葉を待った。
そして、聞いた瞬間言葉を失ってしまう。
「身体がめちゃくちゃ重たくなったというか、ズッシリ感じるというか……マジしんどぃ」
デウスはメーシャの顔が見られなかった。肝がスーッと冷える感覚だ。『ああ、やっちまった……』と絶望した。だが、もうデウスはチカラのほとんどを使い切ってしまい、メーシャにはもう何もできないのだ。
こうなったら宿に泊まった所で事態が好転するなんてことはあり得ない。何故なら……。
『メーシャに重力適応化の魔法かけ忘れてたァ……!!」
「…………え? 今なんて? 聞き間違いじゃなければ、重力重力って言ってた気がするんだけど…………どゆこと?」
メーシャの視線がデウスを突き刺す。
デウスは肉体を持たず、エネルギー体であって見ることはできない。そして、より正確に言うならデウスのエネルギー体……霊体のようなものは実際にこの場に存在しているわけではなく、別空間でメーシャたちをカメラを使ってライブ映像を見ているような状態なのだ。
つまり、物質やエネルギーがないので誰も、人ももモンスターも邪神軍ですら見るどころか感知することすらできないはずなのだ。……はずなのだが、メーシャの視線は確実にデウスに突き刺さっていた。
『ひ、ひぇ〜……!!? ごめんなさーい!!』
恐れをなしたデウスは悲鳴をあげて通信をきってしまう。
「……逃げたちゃった。ま、いいか」
メーシャはそう言うと、今の今まで恐ろしい眼差しをしていたとは思えないような気の抜けた目になり、何も気にしていないのかなんでも無いように背伸びをする。
「ちう?」
「ん? ああ、怒ってないよ。ちょっとからかっただけ〜。てか、環境の違いって異世界に来たって実感できてむしろワクワクもんじゃん! 怒るワケないよ。……それにしても、ここって地球より重力強いんだね。どーりで身体が重たいワケだ。う〜ん、10倍くらいかな? 歩くだけで修行になりそー」
メーシャは手から魔法陣を出現させて頭から順にかざしていく。
「ちうっち?」
ヒデヨシはメーシャに何をしてるのか尋ねた。
「これはねぇ、体重を奪ってるの。身体自体を魔法で軽くすれば、理想の体重にできちゃうって寸法よ。……ん? もしかしてコレって、みんなが喉から手が出るくらいに欲しがる奇跡の魔法では?! やばー! テンションアガってきた! 地球に帰ったらみんなから救世主って呼ばれちゃうかも!? このメーシャミラクルで世界を救っちゃうかも!?」
そんなこんなで、メーシャの体重はメーシャミラクルによって約20%くらいにまで減らすことができた。
10%まで減らさないのは、デウスから貰ったチカラで筋力が多少強化されているのと修行のためだ。徐々に重力に身体を慣らしていき、最終的に元の重力に適応すれば道中無理なく成長できる。
「っし、身体が軽くなったら元気も出てきたし! じゃあヒデヨシ、街まで競争だっ! 走れ〜!!」
さっっきまでのお疲れちゃんはどこへやら、メーシャはゴキゲンステップでアレッサンドリーテの街まで駆け出した。
「ちーう〜!」
ヒデヨシにも一応重力(約)10倍がかかっているはずだが、本ネズミは気にする様子もなくメーシャと同程度のスピードで街へ走っていったのだった。
* * * * *
数分後、メーシャたちは城塞都市アレッサンドリーテに足を踏み入れていた。
住宅街にはレンガ調の民家が、商業地区にはコンクリートのような素材の建物が立ち並び、街の中心にはドイツあたりにありそうな円錐状の屋根のついたお城がある。そして、何よりメーシャたちの目を引いたのが結界である。
東京ドーム1個分はあろうかというサイズの、全体に魔法陣が描かれた真球状の魔石が上空に浮かび、そこからヴェールのように半透明の結界が街を丸ごとおおっていた。この結界はなかなかハイテクで、認証済みのモンスターであれば弾かれずにそのまま通過できるし、逆に普通のモンスターが通れないのはもちろん、街に対して敵意や害意のある者、攻撃魔法や災害までも勝手に反応して通れないようにしてくれるのだ。
だが、城塞都市と言われているのに街を守る壁が見当たらない。普通なら壁があり、門があり、そこで警察や衛兵みたいな方々が検問をしているはずだが、衛兵は街を巡回している者のみ。
まあ、衛兵が少ないのは他にも理由があるのだが、それはそれとして。
実はこの街の地下には王族のみが起動できる巨大な魔法陣が埋まっており、有事の際にその魔法を使えば街を囲む高く強固な防壁が出現するのだ。その防壁は上級魔法を喰らってもびくともせず、並の魔法なら逆に魔力を吸収してより硬くなるという。
なので、戦争時でも基本的に街にひとりは王族を残さないといけないものの、結界と防壁があるおかげで普段は外からの危険をほとんど考えなくても良くなっている。
「──やっと着いた〜! ……のは良いけど、嬉しいような少し残念のような……」
メーシャが街を見渡しながらなんとも言えない顔になる。
「ちうち?」
「だってさ……異世界転移の醍醐味ってオレツエーもあるけど、やっぱ現代知識無双ってカンジしない? でも、ここってどこからどう見ても………………ハイテクなんよ」
そう、地球にあるものと遜色ない自動車も普通にあるし、なんなら一部は空を飛んでいる。
しかも、お店の看板は空中に投影されているし、一定距離ごとに転移魔法陣が敷かれているので街の移動には困らないようになってるし、ちょっとお店を覗けば通るだけで決済できるゲートが設置されていたり、大きな荷物は転送できるサービスがあったりと、夢のような世界ではあるがここで現代知識無双するのは夢のまた夢、みたいな状態であった。
「ちう……。ち、ちゅーちう!」
「まあ、せっかくカレーのシミも落ちる石鹸の作り方とか井戸の作り方とか他にも色々覚えたんだけど、クヨクヨしてて目の前の異世界を楽しめないのはもったいないもんね! 知識自体はサバイバルでも役に立つだろし、いったんフラットな目線になって街をめぐってみよっか!」
「ちうぃ!」
そうしてメーシャは意気揚々と街を進んでいったのだが、またすぐに新たな問題にぶつかってしまうのだった。
● ● ●
「──ちょっと待って、ウソ!? 言葉が全然わかんないんだけどー!!!?」
アレッサンドリーテ商業地区、とある冒険者用道具屋さんにて。
店主のお姉さんと、なんだかチャラい冒険者のお兄さんが話していた。
「──聞きましたか? ここの近くで……」
「ああ……不審者が出たってね。なんでも、ヒトに手をかざしては走り去っていくお嬢ちゃんがいるらしいじゃん?」
チャラいお兄さんは瓶に入った回復薬を受け取ると、懐からタリスマンを取り出して慣れた手つきでレジのスキャナーにかざす。このお店ではこうやってお会計をするようだ。
「そうなんですよ。結界があるから大丈夫だとおもいますけど、ちょっと恐いですね……。まあ、最悪ウチらは店を閉めて防護結界でシェルター化すれば良いですけどね。何をしてくるか分からないですしお兄さんも気をつけて」
「オレちゃんもけっこー強いし、パーティのハニーたちも頼りになる子ばっかりだから心配しなくて大丈夫だよ。……でも、気遣いうれしかったぜ。ありがとうお嬢ちゃん」
チャラいお兄さんはピッと指を立てた後店主のお姉さんにウインクをしてお店を後にした。
この街に出没したという不審者。そう、それはメーシャの事である。この不審者情報はもう商業地区ほぼ全域に広がっていて、すでに衛兵の皆さんが不審者を捕らえるべく捜索中だ。
しかし、なぜここまでの状態になるまでメーシャが暴れたかというと理由があった──。
「こ、言葉が全然わかんない……!! 英語じゃないし、当たり前だけどフランス語とかドイツ語でもないし、アジア圏の言語でもない!! どうしよっ!?」
時間を少しさかのぼり…………メーシャは異世界のヒトとコミュニケーションをはかろうとしたところ、異世界人は地球で聞いた事ない言語を話していて全く会話にならなかったのだ。
何度かジェスチャーも試そうとしたが、そもそも文化が違えばジェスチャーも違う。ほんのり通じる部分もあったが、何か気に障るジェスチャーが混じっていたのか怪しまれて衛兵を呼ばれるのがオチだった。
「ちゅえちゅうちちうちゅーちちちゅあちゅうち」
ヒデヨシの言う通り、デウスは言語適応の魔法も忘れていた。ただ、もし覚えていたとしても、魔力を既に使い果たしてしまっているので結局結果は同じではあるが。
「う〜ん……このままじゃドラゴン=ラードロどころじゃないし、何か方法考えないと……。1から学んでいくのは現実的じゃないし、とは言え言葉を一瞬で自分のものにするなんて…………ん?!」
メーシャは何かをおもいついたのか、表情が一気にパーっと明るくなる。
「そっか! 自分のモノにしちゃえばいいんだ!!」
「ちう?」
「あのね、あーしのチカラって"奪って自分のモノにする"でしょ? だから、人が喋ってるのをスキャンするカンジ? で奪って自分のモノにできればさ、その奪った言葉を理解できるようになるんじゃないかって! まー、正直できるかわかんないけど、やってみる価値はあると思うの!」
言葉なんて奪ってしまえばその人が言葉を使えなくなるのではないかという考えに一度おちいったが、よくよく考えてみると口から放たれた音の振動の一部を拝借できれば言語の解読はもちろん、人への悪影響も無い完璧な作戦なのではという結論に至った。
「ちゅう〜!」
ヒデヨシは型破りな作戦に思わず感心して拍手をしてしまう。
「じゃ、そうと決まれば駆け抜けるよ! できるだけたくさんサンプルが欲しいからね」
言葉の数なんてものは数え切れないほどこの世に存在する。全部は無理にしても、最低限人と会話できるレベルまで言葉を手に入れるとなると、単語の重複や不規則変化する動詞などを考慮して数千人分くらいの言葉は欲しい。ゆっくりしていたら夜になってまた朝になってしまう。
「ちう!」
ヒデヨシは動き回って迷子にならないようにメーシャの肩に飛び乗る。
「オーラを手に集中させて…………れっつ、メーシャミラクル〜!」
こうして、メーシャは言語を習得するために街を走り回り、喋ってる人を見つけては片っ端から手をかざしてオーラで吸収し、用が済んだら走り去ってまた喋ってる人を見つけたら…………と繰り返していき、数時間で見事アレッサンドリーテの有名人(不審者)に成り上がったのだった。
* * * * *
一段落して、メーシャは他のヒトの邪魔にならないように人通りの少ない裏路地に来ていた。
「──ふぃ〜! 結構集まったし、いったん手持ちの言語をラーニングもしたいし、とりまこんなもんでイイかな? どれどれ……?」
メーシャの目のところにバイザー型の、耳のところにはヘッドホン型のオーラが出現したかと思うと、先ほど異世界の皆様方が喋っていた異世界語が音と文字として流れてメーシャにどんどんインプットされていく。
そのスピードは凄まじく、数時間の成果をなんとものの数十秒で出力してしまうほどだ。
「あばばばば……!? 頭が変になりそう〜だし〜!」
正規ではなk突貫工事の学習なので仕方ないが、この方法はメーシャの脳には大きな負担がかかってしまう。デウスからチカラを貰っているのでいくらか軽くなっているものの、それでも30時間くらい寝なかったくらいの疲労はまぬがれない。
「ち……ちゅう?」
「…………あ。でも、なんか聞こえてくる言葉がちょっと分かってきたかも! 頭がぼーっとしてるから今はあんまり処理は早くできないけど、これで一晩お休みしたら多分最低限の会話ならなんとか問題無いレベルまでいける気がする」
メーシャは疲れて声がふにゃふにゃ。今晩は早めに寝た方が良さそうだと思った、その時──。
「おい貴様、そこで何をしている!」
「市民に手をかざしては走り去っていくという不審者はお前のことだな!」
「何がしたいのか分からんが、暴れなければ手荒なことはしない。詳しく話を聞かせてもらおうか」
不審者情報を受けて出動した、くたびれた軽装を身につけている衛兵が3人現れた。
一応鎧は着けているものの兜は見当たらない事から、さほど重大なことだとは思っていないのだろう。しかし、そのおかげでメーシャに感動を与え、より不審に思わせてしまうことになる。
「え!? マジか! もしかしてエルフにドワーフ!? そんでそっちの人は顔がアリさんだから……虫人? む〜……分かんない! でも、みんな地球では見たことない人種の方々じゃん! ああ〜……みんなお友達になりたい! ねぇねぇ、みんなヒマ? これからショッピングしない?!」
ハイテンションのメーシャは早口でまくし立ててしまうのだった。日本語で…………そう、日本語で。
「……な、何を言っているんだこいつは?」