学校が終わるとぼくたちの世界が始まる。
急いで階段をのぼり、ぼくの部屋に行く。
ぼくたちは、2人の間で流行っている格闘ゲームをする。
こんな毎日が続いて欲しい。僕はそう思った。




中学校が始まり、少し大きいサイズの制服も慣れてきた。
中学生になってもしていることはあまり変わらなかった。
学校に行き、幼馴染の阪口佳奈と放課後は僕の家でゲームをする、もう何年もしている。
僕が1人でいたい時も彼女は我が家のようにやってくる。
図々しいやつだ。
最近はひと昔前に流行っていたレースゲームをしている。
「部活決めたの?」
「まだ。そっちは」
「私は汗臭い人嫌いだし入らないと思う。」
佳奈が部活に入らないことに安心する。 
僕はこの時間が好きだ。
たわいもない話をするこの時間がぼくのすベてだ。
この時間がなくなるのは嫌だし彼女が入らないと決めているのなら僕は入らない。
だからこの時間は永遠に続いてほしい。ぼくは願っていた。


一学期が終わり、夏休みになった。
佳奈は毎日ぼくの家に来ていた。といっても中学生になると宿題の量が多くなりぼくたちの思うほどのゲームはできなかった。
それでもぼくは佳奈と一緒の時間を共有できて嬉しかった。
だが夏休みの終わりから佳奈が来ない日ができた。
その時にするゲームは佳奈といる時より面白くない。
「なんで最近来ないの」
「家族と出かけていたんだよ」
左手の中指と人差し指をクロスにしながら言う。
嘘だ。 佳奈はいつも嘘をつくときに指をクロスにする。
人狼ゲームをしていたときに見抜いた佳奈の癖だ。
嘘までついて佳奈が知られたくない事。
それを聞く勇気がぼくにはなかった。
いや、聞いていても僕には止められなかった。



それからも佳奈がぼくの家に来ることはだんだん少なくなってきた。
終礼が終わりいつもなら家に帰るところだが今日は下駄箱で佳奈を待った。
だがどれだけ時間が経っても佳奈は下駄箱には来ない。
不安になった。校内を見にいくと運動場の方から声がした。
アメフト部だ。といってもうちのアメフト部を弱小で人気もなかったはず。
その割には人も多く活気付いている。
「まあ俺には関係のないことだ」
声に出して言い聞かせる。自分が本当はああいう姿に憧れているのには気づいていた。
汗を流して、仲間と話しマネージャーと恋をする…。
ん?
あのマネージャーは佳奈だ。
でも佳奈は部活をしないと言っていた。
それにいつもの癖もしていなかった。
なんで、という言葉しか出てこない
しばらく固まっていると休憩に入り、佳奈は部員の人に水やタオルを
配っていた。
同じ一年のやつとよく話している。
その時の佳奈は本当に楽しそうな顔をする。
僕には見せなかった顔だ。
悔しい。その気持ちを胸にぼくは家に帰った。



今日は久しぶりに佳奈が遊びに来る日だ。
ホラーゲームがしたいみたいだ。
いつものように準備をする。
クッションを置いて机を置き、ジュースとお菓子をセットする。
準備が終わる頃に佳奈はやってくる。
「お邪魔します」
「今日は誰もいないよ」
「そうなんだ。」
もじもじする姿が可愛いと思った。
ぼくは決意した。
ぼくは今日佳奈に告白する。
あんな変なアメフトゴリラよりも僕の方が幸せにできる
絶対そうだ。佳奈は今無理をしている。
そんなこと考えてる間に部屋につき、佳奈を座らせ、ゲームを起動する。
「ちょっといい?」
「どうした、ホラーゲーにビビったか?」
ぼくが笑っていうと佳奈は
「違う。今日はゲームしに来たんじゃない。」
「言わなきゃいけないことがたくさんあって」
「まずアメフト部のマネージャーになったの。それで嘘みたいになるの嫌だからちゃんと伝えとく」
知っている。だからゲームをしにくる時間が減る、という事にもほくは気づいている。
だがもう一つの伝えなきゃいけない話はわからない。
いや。僕は気づきたくなかったのかもしれない。
「彼氏ができた」
聞きたくもない言葉を言われた時は本当にぼーっとする。
世界の時間が止まってしまったと思うほどの時間が過ぎた。
「アメフト部の人で同じ一年。とっても優しい人なの。」
先を越された。きっとあの野郎だ。僕の佳奈を。いつか奪い返してやる。
「そのだからこれからはあんまり家には来れない。」
は?
「彼氏ができたからって家に来れない理由にはならないだろ」
「違うよ。向こうが安心するために、私が安心するために必要なの」
佳奈が安心するため
心の中では理解しようとおもう。でも納得できない。
ぼくは1人になってしまう。
またいつもの癖をしてくれ。それだけぼくは幸せだから。
その願いは叶わず佳奈の手は普通で綺麗だ。
「そっか。じゃあもう帰らないとね」
これしか言えない、おめでとうと言わなきゃ。
このままでは佳奈が帰ってしまう。
学校では話さないからもうこれが最後だ。
もう玄関だ。言わないと。
「じゃあ。今までありがとう」
佳奈の声は淡々としている。
ぼくと会えないのは寂しくないのかな。
「うん。ばいばい」
「ばいばい」




言えなかった。
言えるわけがなかった。
ぼくは佳奈が好きだった。
それなのに佳奈は全く知らない男と付き合い、ぼくとの関係をたった。
そんなバカな話があるのだろうか
悲しくて悔しくて涙が止まらない。
さっきまで佳奈がいたこの空間でさえも羨ましい。佳奈はあのクッションに座っていた。
ぼくはこのクッションを手に取り、自慰をした。初めてのことだったがあまり気持ちよくなくてただ
後悔の気持ちが生まれただけだった。
ぼくは最低だ。
僕は最低だ。
佳奈が欲しい。
佳奈以上の女子はいないのに。
そう思って僕はそれからもずっと1人だ。
佳奈がまた僕の家に来てくれるその日まで。