夏休みは、ほぼ毎日風鈴と過ごした。

ただ全力に。花火のはっちゃけのように。

今日は、風鈴が、俺の家に初めて来る。普段誰も来ない部屋に人が来ることもあり、心が落ち着かない。

ピンポーン 「はーい」
母親がドアを開けると風鈴が入ってきた。

「こんにちは!今日はすみません。お邪魔させてもらって。こちら大したものじゃないんですが、」

彼女のいつもと違う一面を見て驚いた。

「あらーありがとう。涼太、部屋に案内しなさい。」

「あっその前にお父さんに挨拶させてください。」
「ありがとう。喜ぶわ。」

和室に案内し、彼女は仏壇の前で手を合わせる。
静けさが続いた後、
「よしありがとう。部屋に行こう!」
そう彼女が言った。

「どーぞ」部屋に彼女が入る。

「そんなジロジロ見るなよ!」

「だって気になるじゃん笑笑」

「そんなことよりしようぜ。アルバム作り。」

今日は、夏休みの思い出をアルバムにまとめようと
彼女が言ったので家に集まった。

「待ってねージャン写真いっぱいでしょう!」

本当に夏休みだけなのかと思う枚数の写真だ。
改めて今年の夏が、今まででいちばん濃かったと
感じる。

「なんか懐かしく感じるなー。ほらみてこのスイカ割りとかそうめん流しとか。」「ほんとだな。笑笑」

彼女に指示されながら、アルバムを作っていく。
センスがない俺は彼女の言うとおりにした方がいいという賢明な判断をした。作り終えて1つスペースがあった。

「ここは何を貼るのか?」「まだ色んなとこに行くからその写真!」

俺はまだまだ彼女に、振り回されそうだ。

「後さ、ひとつお願いがあるの!図書館に行ってみたくて!」

確かに俺の家の近くには、意外と立派な市立図書館がある。何故かは分からなかったが、暇になってしまったし、行ってみることにした。

外に出ると、一気に熱風が押し寄せてくる。セミの鳴き声が、耳に突き刺さる。でも、今年の夏はたくさん出かけたせいか夏を少し特別に感じられている。たぶんそれは風鈴のおかげだ。

「うわぁー凄いね。涼太、静かにね!」
それはこっちのセリフだと言いたかったが一応、図書館だ。静かにしとこう。

「なんかここお母さんと来た覚えがあるなーって思ってたらやっぱりだ。私、幼い頃入院してた時、本しか見るのなくて。お母さんが借りてきてくれたんだけどわがままいって図書館に行きたいって言って。ここに連れてきてくれたんだ。」

そういうことだったのかと今、理解する。

「ねーなんかイベントしてるよ!行ってみようよ!」
イベントスペースに行くと沢山の人で賑わっている。夏休みはよく図書館では、イベントがされていると聞いたことがある。

「手紙を書こう!!だって。せっかくだし誰かに書こうよ。」

手紙か。もう何年も書いてないな。返事をする前に彼女は、係の人に伝え、氏名を書いている。ちなみに、勝手に俺の名前も。人が意外と多いこともあり、俺たちは少し離れた席に座ることになった。机について紙を渡される。

「こんにちは。今回は手紙を書こうというテーマでイベントをさせていただきます!机にある1枚の用紙に家族や友人、恋人だったり大切な人へのメッセージを書いてみてください。説明は以上です。なにか質問等あれば気楽にどうぞ!」

説明を聞き終わり手紙を書き始めてみる。書く相手は大体決まっていたがいざ書こうとすると難しい。イベントが終わり、風鈴と合流する。

「誰に書いたの?」「うーん。それは内緒だな。」
「えーお母さんとか?」

そんな話をしながら、再び来た道を戻る。
「ねー涼太。これ涼太への手紙。私が、死んだら見て欲しい。読んで欲しい。」

一時、俺は黙り込む。言葉を何も返さずに、受け取る。
作り笑顔を浮かべ彼女を見る。ただ彼女がいるだけで、帰り道さえも楽しい。そんな一時だった。

家に帰り、ゲームをしたり、アイスを食べたりとしていたらいつの間にか日が暮れていた。

「送ってくよ!」「ありがとう。ちょっとその前に。」彼女は「失礼します。」と小さな声で囁き、和室のドアを開けた。来た時と同じように仏壇の前に手を合わせた。

「お父さん。涼太シェフになっちゃいますよ!やばいですよね!見守ってあげてください。また来ます。お邪魔しました。」

彼女はそう言った。ありがとう。伝えてくれて。照れくさくて言えなかったけどそう心の中で強く思った。彼女を駅まで送り、家に帰ると何故か母がこちらを向いて微笑んだ。

「風鈴ちゃんって清水 風鈴ちゃんだわよね!お母さんびっくりしちゃった。」

「えっなんでお母さんが知ってるの、、?」

「もー、誤魔化さなくていいのよー!昔からの幼なじみでよく遊んでたふうちゃんでしょ。まさか二人が繋がってたなんて。もーびっくりしちゃったじゃない。」

「えっ、、」
その後は勝手に家を飛び出していた。

「ちょっとー涼太どうしたのよー?」

全速力で走りながら、彼女に電話をする。

「今どこ?」

「今は電車待ちだよ!どうかした?」
「そこで待ってて。」