佐々木小夜子の取り巻きである、細川は考えていた。

 宮本武と言えば、成績優秀なうえにスポーツ万能。おまけに、爽やかさはピカイチ。それなのに、浮いた噂を全く聞かないのは、以前の学校が男子校だったからだろう。

 共学ならば、女子生徒が放っておくはずがない。現に、武のファンクラブがつい先日、非公式に発足したばかりだ。

 細川は、そんな宮本を潰す策をあれこれと考える。

 宮本とて、年頃の男子。色仕掛けで簡単に手中に収められるだろうが、その大役を担ってもらおうにも、大半の女子生徒が非公式会員のようだし、自分が矢面に立つのは、いろんな意味で危険が伴う。

 いっそのこと、副会長自身に、宮本を懐柔してもらうのはどうだろうか。

 いや、あのカタブツ……もとい、規律を重んじるあの人が、自らそんな事をするわけがない。
 
 宮本には、よく一緒にいる友人がいたはずだ。彼を抱き込むことは出来ないだろうか。彼ならば、それほど身の危険を感じる事もないだろう。

 宮本の外堀から埋めることにした細川は、早速行動に移すことにした。

 昼食を買おうとしていた水野を発見するや、細川は、人混みを掻き分け水野の隣へ。そして、水野が買おうとしているパンに、徐に手を伸ばす。細川の計算通り、同じパンを取り合う形になった二人は、見つめ合うことになった。

「あっ、ごめんなさい、水野くん」
「いや、こちらこそ。えっと……細川さんだっけ?」
「うん。あの、コレどうぞ」
「いや、でも……」
「いいの。私は、他のを選ぶから」

 昼食を買い終えると、細川は、可愛らしく小首を少し傾げながら、水野に声をかけた。

「水野くん。良かったら、お昼を食べながら、少しお話しない?」
「ん? まぁ、いいけど」

 二人は中庭へと移動をすると、ベンチに腰掛ける。水野はすぐさま、話を振ってきた。

「それで、話って? もしかして、宮本のこと?」
「えっ?」

 隠しきれない動揺を滲ませながら、細川は水野に問う。

「なんで、そう思うの?」
「なんとなく。俺に近づいてくる奴は、大体、宮本狙いだからさ」
「あ〜、そうなんだ。じゃあ、話が早いわね」

 水野の言葉に、細川は、取り繕うのを辞め、単刀直入に切り出した。

「宮本くんってどんな人?」
「そうだなぁ。じゃあ、それを教える代わりに、佐々木小夜子について教えてよ?」
「えっ?」
「だって、こちらだけ教えるのは、フェアじゃないだろ。副会長の取り巻きさん」

 ニヤリと笑う水野に、細川は同類の匂いを感じ取った。