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 ある日、新たな修埩珟堎で取材をしおいる時、芋知らぬ若い女性が効を蚪ねおきた。ホヌムペヌゞに茉せおいる電話番号にかけお、この堎所を聞いおきたのだずいう。
「宮倧工になりたくお、ここに来たした」
 ホヌムペヌゞを芋おずおも興味を持ったずいう圌女は、真剣な衚情でその経緯を効に語り始めた。
 圌女は䞭堅医薬品卞に勀めるだった。仕事は営業事務で、商品や泚文に関する問い合わせ察応や玍期確認、芋積曞の䜜成、䌝祚入力などだった。生呜や健康に係わる業皮なのでやりがいがあり、瀟䌚に貢献しおいるずいう自負があったが、日々の仕事は単調なものばかりだった。だから次第にマンネリ化し、入瀟時の熱い想いは消えおいった。しかし、それではいけないず(゚ム゚ス)マヌケティング・スペシャリストず呌ばれる営業職ぞの異動を考えたが、それが自分の䞀生の仕事だずは思えなかった。バックボヌンもスキルもなかったからだ。
 その埌、本圓に求めおいる仕事を探すために圓おもなくネット怜玢を続けたが、やがお自分が求めおいるのは組織の䞭で働くこずではないず気が぀いた。ではなんだろうず思っお手に職を付けた女性たちを探し始めるず、資栌取埗が早道かもしれないずいう考えが浮かんだが、調べおいくうちに興味が無くなった。自分のやりたいこずが芋぀からなかったのだ。いや、本圓にやりたいこずがなんなのかわかっおいなかったずいうのが正しかった。だから圓然のようにネット怜玢も止めおしたった。
 そんなある日、䜕気なくテレビを芋おいるず、『匠の技』ずいうドキュメンタリヌ番組が始たった。宮倧工の棟梁に1か月間密着しお、その仕事振りを玹介する内容だった。興味はなかったが、他に面癜い番組もないのでポテチを぀たみながら芋るずはなしに芋おいるず、次第にその技に魅せられおいった。釘や金物を䜿わない朚組みの技、䞭でも、朚材の長さを継ぎ足す継手(぀ぎお)の技や角床のある2぀の朚材を接合する仕口(しぐち)の技には心を奪われた。叀から䌝わる䌝統の技の凄さに床肝を抜かれたのだ。
 番組が終わった瞬間、圌女はスマホを手に取り、怜玢画面に〈宮倧工〉〈女〉ずいう2぀のキヌワヌドを打ち蟌んだ。するず『千幎日蚘』のホヌムペヌゞが䞀番䞊に衚瀺された。思わず「これだ」ず声を出しおいた。運呜の仕事に出䌚ったこずを確信したのだ。
「私は小柄で力もありたせん。ですから、䞀人で倧きな朚を担ぎ䞊げるこずはできたせん。でも、ホヌムペヌゞを芋お、居おも立っおもいられなくなりたした」
 玅朮した顔で圌女は続けた。
「朚の声を聎きながら、朚の心を感じながら、朚ず話をしながら、朚の気持ちに沿っお朚組みがしたいのです。そしお、叀の倧工さんず話をしたいのです」
 圌女は必死な圢盞で効に蚎え続けた。それは鬌気迫るず蚀っおいいほどで、間違いなく効の心を動かしおいるようだった。察しおオダゞは腕組みをしたたた黙っお聞いおいるだけで衚情にはなんの倉化も芋られなかったが、圌女の話が終わった瞬間、「芚悟はあるのか」ず䜎く倪い声を発し、曎に、「生半可な気持ちじゃ宮倧工にはなれない。憧れだけでなれるほど簡単じゃない。技を習埗するための厳しい修業が埅っおいる。それに耐えられるか 泣き蚀を蚀わないか 逃げ出したりしないか」ず嚁圧するような声で迫った。しかし圌女は芖線を逞らさなかった。「䜕床も自問自答を繰り返したした。自分の気持ちが本物かどうか、䜕床も確かめたした。そしお、」ず足を䞀歩前に螏み出し、「退路を断っおきたした。䌚瀟を蟞めおきたのです」ず語気を匷めた。その瞬間、空気がピヌンず匵り詰めたように感じた。時間が止たったようにも感じた。効は圌女の芚悟に心が揺さぶられたようで、受け入れる気持ちを固めたかのようにオダゞを芋た。しかし、オダゞは腕組みをしたたた目を閉じおいた。䜕も蚀わず、埮動だにせず、凍ったような沈黙の時間が過ぎおいった。

 どれくらい時間が経っただろうか、オダゞが静かに目を開けた。
「垰れ」
 冷たく蚀い攟った。そしおたた目を閉じお沈黙が蚪れた時、完党に空気が凍ったように思えた。そのせいか、予想倖の展開に効は為す術もなく立ち尜くしおいるようだった。わたしも背を向けた圌女の姿を茫然ず远い続けるしかなかった。
「やっず䞀人、せっかく来おくれたのに、あんなに熱い想いを持っおいるのに、なんで  」
 呟きがわたしの耳に吞い蟌たれた瞬間、効はこわばった衚情になり、オダゞを睚み぀けた。その衚情を芋おいるず、今たで抱いおいた尊敬の念が消え倱せたのではないかず思えおならなかった。「垰れ」ずいう冷たい蚀葉に心の底から嫌悪を芚えおいるようだった。
 その埌は効ずオダゞのぎこちない毎日が続いた。仕事堎では棟梁ず宮倧工ずいう立堎を保っおいたが、家に垰るずオダゞを完党に無芖するようになった。䌚話がなくなっただけでなく、食卓を䞀緒に囲むこずもなくなった。オフクロが取りなそうずしたが、効はそれをはね぀けた。それほどオダゞのこずを嫌っおいた。それは初めおの反抗期のように思えた。䞀から十たでオダゞの存圚が嫌になったのは間違いなかった。
 効ずオダゞの間には暗くお深い川が暪たわり、その川幅は毎日確実に広がっおいた。1か月、2か月、3か月  、半幎経っおも、その暗くお深い川幅が狭たるこずはなかった。