2週間に渡る取材を終えてノートを見ながら音声と写真と動画の編集作業に着手したが、それは簡単なものではなかった。先ず膨大(ぼうだい)な資料の中からインパクトのあるものを選び出さなければならないし、それらを多くの人が興味を持ってくれるものにまとめていかなければならない。慎重の上にも慎重を期さなければならないのだ。しかし、慎重にやるだけではインパクトは生まれない。時には大胆な発想も必要なのだ。見る人を引き込むような演出が必要なのだ。平均点レベルや〈よくできました〉レベルでは意味がないのだ。突出したものに仕上げなければならないのだ。もしそれができなければ次はないだろう。誰の関心も引かずに埋もれてしまってどこからも問い合わせが来ないに違いない。それに、そんなことになったら聖徳太子から頂いた名を汚すことになる。それだけはしてはいけない。わたしは〈背水の陣〉という言葉を背負って一心不乱に作業に没頭した。
 完成したのは10日後の夜明け前だった。妻が起きるのを待ってそのことを告げると、「ちょっと待って、顔を洗ってくる」と言って洗面所に飛んでいき、すぐに戻ってきた。わたしは妻をパソコンの前に座らせて完成したものを見せた。すると、食い入るように見ていた妻は「よくできているわ」と言ってくれた。それを聞いてホッとした。今までの努力が報われたと思った。しかし、妻はパートナーであり、クライアントではない。肝心なのは妹の反応だ。依頼人である妹が気に入ってくれなければ意味がない。それにオヤジの反応が気になる。プロ中のプロであるオヤジに認められるのは容易なことではないのだ。朝早くから仕事場へ出かけて行った妹とオヤジが帰ってくるのをじりじりと待ちながら、何度も何度もチェックを繰り返した。