黒い闇が広がる中で、憂汰は見知らぬ街角に立っていた。周囲には破壊された車両と倒れた人々が散乱し、悲鳴と爆音が耳をつんざく。彼の心臓は激しく打ち、息が詰まる。目の前の事故現場に立ちすくむ憂汰の視界は、恐怖と絶望で霞んでいた。
(なんで、こんなことに__。なんで__。)

「兄ちゃん、お菓子かってくれよ。」
「はいはい、わかったって。ほら、底のコンビニよってこうぜ。」
ーそれなのにー

 憂汰の目の前に殺人犯が現れた。背後から、憂季の声が聞こえる。
「憂汰、逃げろ!」
 その言葉が憂汰の耳に届くが
(どうして今になって…?もっと早くに助けてくれたらよかったのに!)
 彼は恐怖に耐えきれず、反応する暇もなく、憂季が間に入って彼を守る。憂汰はその瞬間、怒りと後悔で心がいっぱいになり、憂季に対して口汚く罵った。
(兄ちゃんなんかに助けられるわけがない!どうして、どうして…!)

 救急車の音と、警察の声。
「どいてください!後ろに下がってくださーい!」
「ねえ、あの子何歳?」
「まだ子供じゃないか?」
「手、ないわよ。」
「やば。」
 カメラのシャッター音が響く。
「……っ。」
 彼の目から、一滴の水滴が落ちる。
「何も知らねえくせに、何言ってんだよ。」
 彼の顔は、怒りに満ちていた。悔しさが心に残る。自分を助けるために、刃物をもった犯罪者にかかっていった自分の兄、憂季は目の前で倒れている。
(兄ちゃん__なんで__。)

「憂汰、新しい友達と仲良くしろよ!」
「うっさい。」

「勉強してるのか、えらいな。」
「ここ教えて。」
「ん、いいぜ。ここは、こうなるからこうなんだよ。」
「ああ、もうわかんない!兄ちゃん嫌い!」

いつも文句しか言ってなかった。

(ごめん__兄ちゃん、ほんとにごめん__。)

――今更後悔しても、どうにもならないんだよ、ばかだな、お前は。――

「っ!」
 突然、耳障りな音が静寂を破り、彼は冷や汗をかきながら目を覚ました。深い呼吸を繰り返し、現実の静けさに安堵する。部屋の中に漂う夜の静けさと、外から聞こえるわずかな音が、彼の心臓の鼓動と共に響く。
 憂汰は激しい息遣いとともに目を覚ました。夢の中の恐怖がまだ心に影を落とし、額からは冷や汗が流れ落ちていた。暗闇の中で、彼の心臓はまるで鼓動が暴走しているかのように脈打っている。夢の中で繰り返された悲劇の映像が、現実に戻った今も彼を縛りつけていた。
 布団を乱しながら、憂汰は必死に深呼吸を繰り返す。汗で湿った手のひらで顔を覆い、心を落ち着けようとするが、夢の残像は容易に消えることはなかった。過去の記憶が、またしても彼を苦しめている。
 しばらくして、彼はようやく冷静さを取り戻し、部屋の中に広がる朝の静けさに耳を澄ました。少しずつ心を整えながら、彼は朝の準備を始めることにした。外の空気を吸うことで、心の中の不安を忘れたかった。

 憂汰は、朝の通学路をあるきながらも
(朝見た夢が、こんなにもくっきり残っている。残らなくていいのに__。)
 ただそう思っていた。