今日もいつもと同じ時間に起きて、いつもと同じ時間に家を出る。家族に心配をかけたくないから。
「行ってきます。」
私は満面の作り笑顔で扉を開けた。外に出たら何かがいつもと違う風景が広がっていた。きっと、もうすぐ冬が来る。取り敢えず、学校に向かって歩く。いじめなんかに屈したくなかったし、いじめのせいで成績を落としたくもない。いじめなんかで私の未来を潰したくないから。冷たい何かが頬を流れる。秋風に吹かれて冷たくなかった涙が、そこにあった。
「あれ、何で泣いてるんだろう。…誰もいなくて良かった。」
涙を拭き、前を向く。屈しない。絶対に負けたくない。大丈夫、そう自分の心に言い聞かせる。私には彼がいる。彼が、私の唯一の心の支えになっていた。
学校に着くなりいじめは始まる。靴には画鋲、机には落書き、聞こえる悪口。私は歯を食いしばった。強く食いしばりすぎたせいか、口の中に血の味が広がる。それでも、より一層強く、強く食いしばる。そうでもしないと、涙が溢れそうだったから。
放課後のホームルームが終わり次第、私はすぐに学校を出た。学校に残って良いことなんて、一つもない。早足で塾に向かう。いつもより時間は早いが、先生はもういた。
「こんにちは。」
私はいつものように挨拶をする。
「こんにちは。今日は早いね。時間になるまで自習でもしてて。」
先生に言われた通り自分の席に着きノートを開いた。少しするとぽつぽつと生徒が増えていく。
「先生、こんにちは。」
一番聞きたかった声が聞こえ、私は顔を上げた。彼が来たのだ。しかし、先生が彼を個別相談室へと連れて行った。一体彼は何をやらかしたのだろうかと思い微笑む。授業の時間に近くなり、部屋から出てきた彼は少し強張った表情をしていた。彼が私の隣に座る。
「ねえ、何やらかしたの。」
私の質問に彼は驚いた顔をしたあと、ふっと笑った。
「香奈の中で俺は何かをやらかす人なのかよ。」
彼の声が、彼の笑顔が、全てに胸が締め付けられる。純粋に彼を愛する気持ちと、彼に隠し事をしている罪悪感と、バレないだろうかと言う不安で心がぐちゃぐちゃになりそうになる。
「どうした。具合悪いか。」
彼が私の顔を覗き込んで尋ねる。駄目だ。彼の前で暗い顔をしていたら心配をかけてしまう。
「ううん、違うの。ただ、寝不足で。」
胸がちくちくと痛む。彼に嘘を付くことがこんなにも苦しいなんて思わなかった。ごめん。ごめんね凌也君。何度も心の中で謝る。君には、君にだけは、何があっても、口が裂けても、言えないよ。この感情をそっと胸の中にしまい込む。辛いのは私だけでいいんだ。私が我慢すれば、きっと。そう自分に言い聞かせた。
「さ、授業始まるよ。また、怒られたら大変でしょ。」
「だから、さっき別に怒られたわけじゃねぇし。」
二人で冗談交じりのやり取りをしながら笑い合う。私は上手く、笑えているだろうか。心がちくりと痛んだ。
「行ってきます。」
私は満面の作り笑顔で扉を開けた。外に出たら何かがいつもと違う風景が広がっていた。きっと、もうすぐ冬が来る。取り敢えず、学校に向かって歩く。いじめなんかに屈したくなかったし、いじめのせいで成績を落としたくもない。いじめなんかで私の未来を潰したくないから。冷たい何かが頬を流れる。秋風に吹かれて冷たくなかった涙が、そこにあった。
「あれ、何で泣いてるんだろう。…誰もいなくて良かった。」
涙を拭き、前を向く。屈しない。絶対に負けたくない。大丈夫、そう自分の心に言い聞かせる。私には彼がいる。彼が、私の唯一の心の支えになっていた。
学校に着くなりいじめは始まる。靴には画鋲、机には落書き、聞こえる悪口。私は歯を食いしばった。強く食いしばりすぎたせいか、口の中に血の味が広がる。それでも、より一層強く、強く食いしばる。そうでもしないと、涙が溢れそうだったから。
放課後のホームルームが終わり次第、私はすぐに学校を出た。学校に残って良いことなんて、一つもない。早足で塾に向かう。いつもより時間は早いが、先生はもういた。
「こんにちは。」
私はいつものように挨拶をする。
「こんにちは。今日は早いね。時間になるまで自習でもしてて。」
先生に言われた通り自分の席に着きノートを開いた。少しするとぽつぽつと生徒が増えていく。
「先生、こんにちは。」
一番聞きたかった声が聞こえ、私は顔を上げた。彼が来たのだ。しかし、先生が彼を個別相談室へと連れて行った。一体彼は何をやらかしたのだろうかと思い微笑む。授業の時間に近くなり、部屋から出てきた彼は少し強張った表情をしていた。彼が私の隣に座る。
「ねえ、何やらかしたの。」
私の質問に彼は驚いた顔をしたあと、ふっと笑った。
「香奈の中で俺は何かをやらかす人なのかよ。」
彼の声が、彼の笑顔が、全てに胸が締め付けられる。純粋に彼を愛する気持ちと、彼に隠し事をしている罪悪感と、バレないだろうかと言う不安で心がぐちゃぐちゃになりそうになる。
「どうした。具合悪いか。」
彼が私の顔を覗き込んで尋ねる。駄目だ。彼の前で暗い顔をしていたら心配をかけてしまう。
「ううん、違うの。ただ、寝不足で。」
胸がちくちくと痛む。彼に嘘を付くことがこんなにも苦しいなんて思わなかった。ごめん。ごめんね凌也君。何度も心の中で謝る。君には、君にだけは、何があっても、口が裂けても、言えないよ。この感情をそっと胸の中にしまい込む。辛いのは私だけでいいんだ。私が我慢すれば、きっと。そう自分に言い聞かせた。
「さ、授業始まるよ。また、怒られたら大変でしょ。」
「だから、さっき別に怒られたわけじゃねぇし。」
二人で冗談交じりのやり取りをしながら笑い合う。私は上手く、笑えているだろうか。心がちくりと痛んだ。



