「それでこれなんだけど」

 そう言いながら、凪は自分が担当する方達の当日の日程を真剣な表情で私に説明してくる。立ち話のままだけど、その距離は肩が触れ合うギリギリくらいに近い。
 顔が近付く度にこっちの心臓は鼓動が早くなって困っているのに、この男はさすがだな。最初の気まずさなんてもう微塵も感じさせないくらい平然としている。そう、仕事として割り切れているみたいに。

「うん……それでいいと思う……」

 仕事だからって私も割り切っている。……はずなのに、そんな簡単に上手くいくはずなんてなくて、内心あたふたしている。だから発言に動揺が隠し切れない。

 なのにこの元カレは、後腐れなんてなく見える。

「そっか、これでいいのか! さすが瑠歌!ありがーー」

 忖度なんて全くない屈託のない笑顔でいつもみたいに喜んでいたのに、急に『ヤバい、付き合ってる時の癖が出た』とでも思ったんだろう。言い終わる前に明らかにハッとした様子で、急ブレーキが掛かったように最後の方の言葉をプツンと切る。

 そういう所だ。そういう笑顔が1番困る。

 そして。
 
「じゃ、じゃぁ俺、仕事に戻るから」

 言った自分が現実に戻るその瞬間がこっちはキツいし、急に現実に戻って距離を空けようと目を逸らして逃げようとする。
 気まずそうなのがバレバレ。