ベッドから落ちそうになって目が覚めた。いやベッドではなくてソファーから落ちそうで目が覚めたのだった。まだ、7時前だった。今日は日曜日だからゆっくり寝ていれば良いが、やはりソファーは寝心地が悪かった。

今、僕は大手食品会社の中央研究所に勤めている。仕事の内容は機能性食品の研究開発だ。去年の7月に3か月の研修を終えて配属された。その研究所はあざみ野にある。ここの賃貸マンションは高津駅から徒歩5分くらいのところにあって、家賃の1/3を会社が負担してくれている。通勤時間は30分くらいだ。

一人暮らしが快適なように、大型テレビ、大型の冷凍冷蔵庫、ドラム式乾燥洗濯機、電子レンジ、電気釜などの家電を買いそろえた。Wi-Fi でパソコン、スマホは使い放題、オール電化で、一人暮らしなら快適な住まいだ。まあ、今となっては美幸と二人でもなんとか快適に暮らしていけると思う。

リビングには2畳ほどのカーペットを敷いてその上に大きめの座卓を置いている。そばに3人掛けのソファーを置いて、これに座るか寝転がって大型テレビを見る。この3人掛けの大きめのソファーを買っておいてよかった。これがないと床で寝なければならないところだった。

8時になっても美幸は起きてこない。寝室のドアをそっと開けると美幸が着替えをしていた。

「いや、お兄ちゃん、覗かないで」

「ごめん、まだ、寝ているのかと思って。もう起きて朝食にしよう」

僕は朝食の準備をする。トーストを焼いて、牛乳をカップに入れてチンする。バナナとリンゴを切る。しばらくすると部屋着に着替えた美幸が出てきた。バスルームへ行ってから、ソファーに座って、僕の作った朝食を食べ始めた。

「ありがとう。朝食を作ってもらって。ここへ来たかいがあったわ」

「甘えてないで少しは手伝えよ」

「おんぶにだっこというわけにもいかないから、家事は分担します」

「ところで、就職先は大手旅行会社と聞いているけど、勤務場所はどこになりそう?」

「本社が虎ノ門にあって、本社勤務になるみたい。4月1日に入社式があって、それから研修が2か月ほどあって、その後に配属先がきまるみたい」

「うちの会社も本社が虎ノ門にある。高津駅から虎ノ門駅まで30~40分くらいかな、50分くらい見ておけば十分だと思う」

「お兄ちゃんは本社勤務にならないの?」

「ときどき打ち合わせに行くくらいだけど、しばらくはならないだろうな」

「お兄ちゃん、今日の予定は?」

「特にないから、まず、その旅行会社の本社へ行ってみないか? 通勤経路を教えるから、それから銀座へでも行ってみよう。あとは時間次第で美幸が行きたいところに連れて行ってあげる」

「ありがとう、お兄ちゃん、私のことを考えてくれているのね。じゃあ案内してください」

美幸は瞳のことを何も聞いてこなかった。美幸のことだから僕を問い詰めてくるかと思っていたが、ほっとした。僕には美幸には瞳のことで後ろめたさがあった。