「お、雨やんだな」
 私の気も知らずに、窓の外を見て、賢司が言う。

 私も窓を見た。
 雨粒のついたガラス越しに街が見える。道を行く人はみな、傘を閉じて歩いていた。

 私はゲリラ豪雨を恨んだ。急に降りさえしなければ喫茶店に入らなくて済んだし、賢司を意識しなくても済んだのに。

 なのに、今となっては、やんでしまったことが恨めしく思えてしまう。

 雨が止んだなら、お店を出ないといけない。

 会計を済ませて外に出ると、先ほどまでの暗い雲はどこにも見当たらなくなっていた。

 電線や喫茶店のひさしから、思い出したように雫がぽちょんと垂れる。

「じゃ、行こうか」
 賢司に手を差し出されるから、私はドキッとした。

 手をつなぐってこと? なんで急に?

 おそるおそる手を握ると、賢司は苦笑した。

「上着、邪魔だろ」
「あ!」
 すごい勘違い。恥ずかしい。

 私は慌てて上着を脱いで彼に返した。

「せっかくだからさ」
 賢司は上着を手に持つと、反対の手で私の手を握った。

 私は驚いて彼を見る。

「これで行くか」
 賢司は視線を合わせず、空を見上げている。その耳が赤い。

「……うん」
 私は反対を向いてうなずいた。

 雨上がりの空は、どこまでも青く輝いていた。