彼は上着を脱ぐと、私の肩に羽織らせた。

「羽織っとけ」
「あなたが寒くならない?」
「大丈夫。夏の上着なんていつもは邪魔だけど、役に立ったな」

 彼はにこっと笑った。
 晴れた空のような爽やかさに、私の胸がどきっと鳴った。

 賢司にどきっとするなんて。

 マンガのせい、マンガのせい。

 私は呪文のように心の中で唱える。

 だけどいったん意識してしまうと、どうしても気になってしまう。

 ぶかぶかのスーツの硬い生地が冷房から私を守ってくれている。

 まるで賢司が私を守ってくれているように錯覚してしまいそう。

「上着を借りるなんて、彼女が気を悪くしない?」
 言ってから、失敗を悟った。こんなの探りを入れてるみたいじゃない。

「いないよ。ってか、お前は彼氏いんの?」
「いないけど……」
「そっか。良かった」

 良かったってどういうこと!?
 余計に気になる状態になってしまった。

「なんかいいな」
「なにが?」

「俺の上着をお前が着てるの。かわいい」
 いたずらっぽく、賢司が微笑する。

「やめてよ」
 私は両手で顔を覆った。せっかくおさまったのに、また顔が赤くなっちゃう。