真夏は人をぐだぐだにする。

 私はうらめしく空を見上げた。すかっと晴れ渡った青空には、もくもくと絵にかいたような白い雲が沸き上がっている。

 あれ全部、水蒸気じゃん。あれだけ水が蒸発していくほどの熱気なんだから、人間が茹で上がらないわけないと思う。

「大丈夫?」
 同僚の戸来居賢司(とくいけんじ)に言われて、私は首をふる。

「無理、溶ける」
「会社を出てまだ5分だけど」
 賢司が苦笑する。

 だけど、もうすでに汗だくでメイクは崩れていると思う。

 私たちは営業で、得意先にまわるために会社を出たところだった。
 夏の日差しにあぶられながら、私たちは目的地に向かった。





 なんとか営業を終えてビルを出たときだった。
「さっきまで晴れてたのに」
 私は空を見上げてつぶやいた。

 重苦しいグレーの雲がどんよりと空を覆っている。

「降りそうだな。急ごう」
 賢司が言い、私は頷いた。