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 音が聞こえると思ったら、どうやら現実もどこかで花火大会らしかった。ベランダに出ると、マンションの合間に花火が見え隠れしている。

 あれから涼と渚が付き合ったと風の噂で聞いた。あたしは疎遠になって、今ではもう連絡もとっていない。どこで何をしているかさえ知らない。それでいい。

 おかげであの日願ったいつかを迎えて、ちょっと――いや、だいぶ美化された思い出を宝箱から引き出せるようになった。

 とびきり自分勝手で精いっぱいだった。言わなかった秘密は、あの夏にちゃんと置いてきた。

 けれどもまだ、思い出してしまうことがある。いつか、忘れるまでは美化した思い出としてしまっておくのは許してほしい。

 相変わらず自分勝手なことを考えながら、花火の音に背を向けて窓を閉めた。

END