「もう、いいってば!」

 僕はそう言うといつものセットが入っているグレーのバッグを持ち、外に飛び出る。そして兄からのお下がりの自転車にまたがりペダルを漕ぐ。後ろから名前を呼ばれたような気もしたが、空耳だと思い直し構わずに自転車を進める。
 最近、両親と言い合いになることが増えた。原因はわかっている。僕の大学受験や将来についてだ。
 4つ上の兄は頭が良く、優秀だった。それは父譲りらしく、父は医者として結構大きい病院で働いている。もともと両親は、子どもに特別賢くなるよう教育に力を入れて育てるつもりではなかったという。しかし、兄が頭が良く上の高校や大学を目指せると知ると、レベルの高い塾に通わせるなど、勉強しやすい環境を整えた。兄も勉強が好きらしく、両親が望むようにどんどん実力をつけていき、高校は県の中で一番の進学校へ、大学は日本でトップ3に入るところに行った。近所では優秀の子は優秀と、一目置かれる存在となっていた。
 そんな優秀親子に比べて、僕は普通だ。学力は平均的で、運動は好きじゃないけど音痴ではない。習い事はピアノをしていたが、特に才能も、特別上手いなどもなく高校受験を機に止めた。