「じゃあ、家の中を説明して、簡単なルールを決めよう」

「うん! ルールその一、真白のことは真白と呼ぶこと」

「いきなり無意味なルールが出てきた」

「え、大事だよ? 一緒に暮らすのに『麻生さん』って呼ばれるのは疲れる」

「……わかった」

「その二、真白を殺して!」

 晨の身体から力が抜ける。

 幸い、座っていたお蔭で崩れ落ちることはなかったが、立っていたら危なかったかもしれない。

「絶対に殺さないから」

「絶対、殺されるようにがんばる!」

「……がんばるところ、違うよね?」

 晨の言葉に、真白は楽しそうに笑う。

 屈託のない笑顔には悩みの欠片も見つけられない。

 晨が口を開きかけた瞬間、真白が勢いよく立ち上がって、スタスタと迷いなく歩き、仕事部屋兼寝室のドアを開けた。

 確かに部屋は一つしかないから、迷いようはないけれど、他人の家に初めて来て取る行動としては、突拍子もない。

「ここが、二人の愛の巣!」

「違うでしょう⁉」

 晨は慌てて駆け寄り、ドアを閉めた。

 とんでもないことばかり言う真白には、確実に手を焼く。

 振り回される毎日を想像して、静かな日常が壊れる音がした。