諦めの境地で、美しくて愛おしい彼女を見つめる。

健康的だけど、フィギュアスケート選手らしく折れそうなほど細く、バレリーナのように均整の取れたスタイル。全体的に色素が薄いが不思議と存在感は強く、顔の造形はこの世のものとは思えないほど美しい。人間だとは思えないほど神秘的な彼女は、儚い見た目とは裏腹に、強い意志と口調、天才的な頭脳と身体能力、そして少々の強引さを持つ。

ここまでくると、正真正銘の人間離れした生命体だ。

舞白はしばらく、背中の中ほどまである色素の薄い髪を、細くて真っ白な指先で肩口のあたりで弄んでいた。そして、何かを決意したかのような強い瞳でこちらを見つめ、瑞々しく、柔らかそうな紅い唇から言の葉を紡ぎだした。

時間が止まったかのような錯覚。全身に衝撃が走り、歓喜のあまり、僕は、無意識のうちに彼女を抱きしめていた。

あぁ、夢みたいだ。

 ◇◇◇◇◇

昨日と同じ頃、ヒグラシの鳴き声に耳を傾けながら、私と日向はそれぞれの家に戻った。幸せをかみしめながら。

彼は、高校は欧州に進学する予定らしい。驚いたけど、それ以上に嬉しかった。もしそうなれば、欧州が拠点の私でも、もっと彼と会えるだろうから。



あれから三年。私達は再び、あの道路橋の下に来ていた。

一週間ほど前に、フィギュアスケートのオリンピックが開催された。そして、私はそこで優勝した。

あの日、幸せを勝ち得てからは、自分でも信じられないほどの成長速度だった。

オリンピックでの演技構成は出場者の誰よりもレベルが高かったし、完成度も成功率も、誰よりも完璧だったと自負している。それは、私がSP(ショートプログラム)もFS(フリースケーティング)も、勿論総合でも世界最高得点を大幅に更新したことが証明している。

そして私は、フィギュアスケート界の真の女王の座を勝ち得た。

彼を諦めて離れる決意をし、欧州に渡ってから八年。色々あったけれど、ようやくこれまでの努力が実を結んだんだ。

不意に、涙がこぼれた。喜びのあふれる私が帰る場所は、あの時からいつも、大好きな彼の腕の中。

彼と二人で、幸せをかみしめながら歩いていく。今日も、明日も、一週間後も、一ヶ月後も、一年後も。


一生、永遠に……。