「……どうしたの?え、もしかして、熱中症になっちゃっ―――」

「―――て。」

「ごめん、なんて言ったの?よく聞こえなくて。」

先程上を通った車の音が、遠ざかってゆく。日向は伏せていたまぶたを上げ、私の目をじっと見つめた。

「お願いだから、やめて。これ以上、僕を―――」

風が、吹く。彼の瞳は、私の後ろの川の輝きを映している。私は、なぜか彼から目が離せなくなった。

「―――僕を、おかしくしないで。これ以上夢中に……好きにさせないでよ。」

期待しちゃうじゃん、とつぶやいた彼の瞳で、涙が太陽の光を反射していた。

川の流れる柔らかい音にかぶさった心臓の鼓動が、妙に耳に響いていた。

 ◇◇◇◇◇

あぁ、ついに言ってしまった。

目を見開いてぽかんとしている彼女を見ながら、僕は後悔していた。言わなければよかった、と。

でも、しょうがないじゃないか。五年ぶりに、あんな可愛い笑顔を見せられたんだ。感情が高ぶったまま言ってしまったのは、不可抗力だとしか言いようがない。

それに、舞白の不思議な色合いの双眸に見つめられてしまうと、僕は嘘がつけない。何でも言ってしまいそうになる。そして、僕をますます魅了してくる。

今だって、苦しいくらい、君のことがほんとに好きなのに。あぁ、ずっと君と一緒にいられるように、このまま時が止まってしまわないだろうか。

でも、そんなことは無理だってことも、僕が君には不釣り合いだってことも、君が僕のことを何とも思っていないことも知っているから。だからせめて、影から見守ることだけは許して欲しい。

僕は、ぎゅっと閉じていた唇を動かした。

 ◇◇◇◇◇

私の頭の中を、彼との思い出が、まるで映画のフィルムみたいに高速で回っている。

「え、と。」

混乱する中、私は口を開いた。そのとき、日向も何かを言おうとした。

「あ、ごめん。先にどうぞ。」

ううん、君から言って、と、彼は微笑む。それに感謝しつつ、ずっと諦めていた言葉を言おうと、口を開く。

「私は―――」

あなたは昔から暖かくて、人気者で、私には到底手が届くとは思っていなかった。

でも―――

「―――私も……日向のことが、好き。」

小さく、笑ってみせる。次の瞬間、私は、大好きな幼馴染の腕の中に、居た。