薪に適したドングリの森まで、二人は手をつなぎながらお花畑を歩く。色とりどりの花に包まれ、かぐわしい芳香が気分を華やかにし、歩いているだけでも楽しくなってくる。なぜここだけこんなに花が咲いているのか不思議だったが、セリオンに聞いても分からない様子だった。

 ドングリの森についたソリスは、あちこちに力任せにへし折られた巨木があるのに唖然とした。きっと薪にするために力任せに折り取ったのだろう。

「とんでもない怪力だ……」

 ソリスはそうつぶやき、首を振る。

 こんなの到底真似はできないが、自分らしく美しい薪を作ってやろうと気を取り直し、一本の立派なクヌギの木に向けて剣を構えた。

 すぅー……、はぁぁぁぁ……。

 呼吸を整え、太い幹に狙いを定める。レベル125の世界最強の女剣士の剣気はすさまじく、刀身は徐々に黄金の光を帯び始めた。

 セイヤーッ!

 目をカッと見開くと、目にも止まらぬ速さで剣を振りぬくソリス。

 鮮烈な光を放ちながら、剣気の輝きが太い幹を斜めに貫いた――――。

 直後、幹は斬り筋に沿ってズズズ……とずれ始める。

 ヨシ!

 ソリスは満足げに目を閉じ、剣を(さや)にカチっと収めた。

 クヌギの幹は地響きを伴いながら、轟音と共に大地へと崩れ落ち、ソリスはニヤッと笑いながらセリオンに振り向く。

「すごーーい! おねぇちゃん、凄い!」

 セリオンは目を丸くしてパチパチと拍手をしながら駆け寄った。

「ふふーん、()めて褒めて!」

 ソリスは上機嫌に腰に手を当て鼻高々にドヤ顔でセリオンを見る。

「うん、すごい! 僕がやるとこんな風にならないからなぁ……」

 セリオンは感心したようにツルツルの切断面をなでた。


       ◇


 枝を刈り、幹を家の裏手まで力任せに引っ張って持ってきた二人は、今度は薪割りに精を出す。

 ソイヤー!

 ソリスは真上から真向(まっこう)斬りで、丸太に剣を叩きこむ――――。

 パッカーン!

 いい音がして丸太は一刀両断にされて飛び散った。

「うわぁ、すごいすごーい! 僕にもやらせて!」

 セリオンは碧い目をキラキラと輝かせ、ソリスに剣をおねだりする。

「いいけど、気を付けて。力の入れ方間違えると危ないからね」

「やったぁ!」

 ソリスはセリオンに剣を握らせ、握り方やフォームを手取り足取り教えていった。

「下腹部に力を入れて、(つか)を前にすっと出し、そこから手首のスナップで刀身をくるっと回し、その勢いで真下に斬り降ろす……分かった?」

「えっ? こう……かな?」

「上手上手! じゃあ、ちょっとやってみよう」

 まずはソリスも一緒に剣を握ったまま、丸太に向けてゆっくりと剣を下ろしていく――――。

 カン!

 剣は美しい軌道を描きながら丸太に食い込み、ピシッとひびが入る。

「分かったね? じゃあ、一人でやってみよう!」

「よぉし!」

 セリオンは上段に構えると、じっと丸太を見定める――――。

 そいやぁ!

 碧い目をキラリと輝かせると、刀身を丸太へと打ち込んだ。

 ヴィィン……。

 丸太に当たった剣は鈍い音を立て、セリオンの手からすっぽ抜けてしまった。クルクルと回りながら跳ね返ってくる剣――――。

 わぁっ!

 焦ったセリオンだったが、ソリスは冷静に回る刀身を指先で(つま)み、軽やかに受け止めた。

「こらこら、剣を手放しちゃダメよ」

 ソリスはセリオンをたしなめ、サラサラとした金髪を優しくなでる。

「ご、ごめんなさい。僕、向いてないかも……」

 セリオンは口をとがらせ、うつむいた。

「薪割りは私がやるから、割ったのを積んでいってね」

 うん……。

 セリオンは可愛いため息をつくと、残念そうに散らばっている薪に手を伸ばし始める。

 すると、薪に開いた穴から白い何かがうごめいているのを見つけた。

「あっ! カミキリムシの幼虫だ!」

 目を輝かせるセリオン。

「よ、幼虫……?」

 ソリスは思わず後ずさる。ソリスにとって無視は天敵なのだ。

 セリオンは嬉しそうに幼虫を引きずり出すと、グミを食べるようにパクっと口に放り込んだ。

「うほぉ……、美味しぃ……」

 恍惚とした表情で美味しそうに幼虫の旨味を堪能するセリオン。

「え……? 食べ……ちゃったの?」

 ソリスは虫を美味しそうに食べているセリオンを見て、固まった。まさか虫を食べるとは……。 確かに田舎の人は虫を食べるというのを聞いたことがあるが、こんな可愛い子供が美味しそうに食べているのを見ると、複雑な気分になってしまうソリスだった。

「ん? おねぇちゃんも食べる?」

 セリオンは散らばっている薪の中から次の幼虫を見つけると、嬉しそうにつまんでソリスの顔の前に出した。

 ひぃぃぃぃぃ!

 ソリスは全身に鳥肌をたて、慌てて逃げ出した。

「あ、おねぇちゃん、虫がダメなんだっけ……。美味しいのになぁ」

 セリオンはそう言いながらまた幼虫を口の中に放り込む。

 その後もセリオンは幼虫を見つけるたびに美味しそうに食べ、ソリスは後ろを向いて見ないようにしていた。


         ◇


 夕方には全ての丸太が山盛りの薪になり、小屋の裏手に積んで野ざらしにしておいた。こうやってしばらく雨に晒した後、薪の棚に入れて二年ほど乾燥させて出来上がりらしい。

 ソリスはこんもりと積み上げられた薪の山を眺めた。これで一年分にはなっただろう。額の汗をタオルで拭いながら、セリオンの役に立てたことを嬉しく思った。

「おねぇちゃんのおかげでとても助かったよぉ」

「ふふっ、どういたしまして!」

 ソリスは嬉しそうに笑うセリオンの頭をやさしくなで、ニッコリと笑った。