「小娘……さすがに酷くないか……」
「暴力娘……」

 殿方二人の(わたくし)への評価と、ドン引いた視線が酷いですね。

「はあ、ひとまず説明せよ」

 何でしょうね? 脱力感満載で妻に質問を投げる夫の態度は。

「ずっと探していた殿方を見つけたので、勧誘したまでです。隷属の誓約によって激痛に苛まれていたので、ひとまず気を失って頂きました。というわけで、この者は本日付けで私の部下となります。この宮での事は不問と致します」
「はぁ。認めると?」

 せっかく夫に答えたのに、今度はため息混じりに反論ですか。けれど半ば諦めてらっしゃいますよね?

「元より私が雇い入れた者を、この宮の使用人として置くと話してありましたよ。それにこの者から色々と、話を聞きたかったのでは? 諜報の一端を担っていたなら、単なる暗殺者よりも情報に通じているかもしれませんね」
「つまり貴女は、その者を懐柔できると? しかしその者は隷属の誓約があるのでは?」
「左様です。ですから隷属の魔法をちょちょいと解除してしまうしかありません。このように激痛をもって支配されていた、憐れなる者です。慈悲と、有益なる情報をもたらせば、余罪はあっても減刑なさってくれるでしょう?」
「誓約に使っている、体の一部を切り取るという事か? 隷属の誓約に使う紋は急所に施す。後宮に入る者の首だとかな。本当にお前の言う通りならば……まあ、それも熟慮しよう」

 陛下の言う通り、誓約魔法の中でも隷属に関わる類の紋は、必ず急所となる部分につけられます。大抵は奴隷につける紋ですからね。

 その上、犯罪奴隷や不法所持された未登録奴隷になる程、解除自体も難しいとされております。また、紋を他者に洩らそうとするだけでも、先程のように激痛を与えます。自ら切り取り、自殺する事もできません。

 関わる場所が皇帝の女達が住まう場所となる者は、急所となる首に紋を施します。しかし解除は隷属のものより容易となっているのです。

「そのような暴力的な事は致しません。少し骨は折れますが、丞相なら五体満足なまま解除できますよね」
「ほう?」

 誓約魔法をかけた者以外が解除する方法。私が知っているのは、そんなに警戒する事でした? そういえば誓約魔法を扱える者は、特殊な扱いとなっておりましたね。

 丞相は目を細めて私の一挙手一投足を窺おうとなさっています。

「もしくは陛下です」
「どういう意味で申している」

 丞相が窺うだけで解除しないのならばと、陛下に話を振れば、今度は軽く睨まれてしまいました。

「お二人共、過剰反応が過ぎます。誓約魔法の完全解除は、確かに難しい。けれど圧倒的な魔力の差があれば、解除者がいなくとも力技で解除できるはずでは?」
「何故知っておる? それは秘匿された話だ」
「昔解除したのを、直に見ておりますもの」

 それこそ二代目の私が出会った、ジャオの族長ですが。元々誓約魔法の発祥は、ジャオという東亜の部族です。

 族長と知り合った私。芸事の肥やしにしようと解除について学びました。なので私にも解除は可能です。

 解除に魔力は必要ですが、コツというものが一番物を言います。なので今より魔力の少ない二代目でも、解除できました。

 その後、魔力を使い過ぎて寝こみましたが。

 鍵が無ければ、錠前を開けられない人もいます。けれど針金で錠前を開けられる人もいるのです。解除も同じようなもの。

「なるほど。ならばその後、解除された者が廃人のようになってしまう事も知って居るか?」
「そうなのですか? それは……」

 ド下手なのでは?

「今失礼な事を考えたであろう」

 あら、ついうっかりと。気の毒な者を見る目をしまいました。

「いいえ、特には。試された事は?」
「あるはずがない。誓約をかける者に、そのように代々伝わって……できるのか?」
「私が見た時はそうでしたよ? という事で、やってみましょう」
「おい、軽すぎるだろう。もし失敗すれば……」
「いいじゃないですか。どのみち死する運命であったのですから」

 尋問中、確かそのように聞きましたよ。

「だからとて命を軽んじるな、小娘!」

 叱責する陛下の言葉は正論です。けれど、どの口が仰るのでしょう?

 思わず呆れた目を向ければ、陛下はたじろぎます。わかっているならかまいませんが、少々イラッとしてしまいましたよ。