「………………手伝ってやるから話を聞かせろ」
陛下は予想に反し、消えてくれませんでしたね。返事には大分、間がございましたが。
昨夜といい今といい、お付きの方が見当たりません。間違いなくこっそりと、この宮に忍びこんでますよね? はた迷惑ですよ?
腰には例の剣を帯剣しておりますが、もし私が暗殺者だったらどうするのです? もちろん名実共に、私は貴妃で間違いございませんが。
「それではまず鳩の首チョンパして、お腹を切って内臓の処理と血抜きをなさっていて下さいな。内臓はこちらの葉っぱを編んで作ったお皿に。私は鍋に水を……」
「鳥と鍋を寄こ……おい、これは花瓶だ!」
しかも普通に手伝ってくれそうな勢いです。皇帝が鳥を捌いて、鍋に水を満たしてくれるのでしょうか?
「食材を入れれば、それはもう鍋です。美しい装飾の、鍋です」
「しかも埃まみれであろう!」
そう言うと魔法で大量の水を出し、ザバッと鍋を洗って一瞬にして水で満たしてくれました。魔力が多いと便利ですね。
「火は?」
「いつでも火をつけられるようにしてありますが、下処理をしてからと……」
「案内しろ」
風除けになりそうな岩の間に案内します。すると陛下は用意していた石と木を組み合わせ、手慣れた様子で即席焜炉に。流れるような作業で鍋を置き、魔法で火を起こしてしまいます。
魔力量が多い方は、本当に重宝しますね。一家に一人は欲しいものです。
感心していれば、今度は鳩と葉っぱ皿を掴んで木陰に。懐から小刀を出してらっしゃいましたから、処理してくれるのでしょう。
「紐は?」
「ここに」
内臓が盛られた葉っぱ皿をズイッと押しつけてきた陛下に、用意していた紐を渡すと、手慣れた様子で鳩の胴を木に逆さ吊り。血抜き作業も完璧です。
手際の良い殿方は、性格がどうであっても素敵に見えるから不思議ですね。
皇帝という、鳥の捌き方など知らなそうな尊き身分の陛下。なのに作業には熟練感。まあ生い立ちが、生粋の皇族と違っている為でしょう。
「それで、そなたは何を目的に入宮した?」
「丞相としっかり報連相なさればよろしいのでは?」
焜炉を挟み、互いに岩に腰かけて一段落すれば、何を怪しんでおられるのか。丞相と話をしたのではないのでしょうか? 目的も何も、丞相の強制ですよ?
「そなたに聞けと」
「割り増し料金をいただきたいくらいですね」
これ以上、契約外の事に手間を割かれるならば、銀塊くらいは……。
「これをやる」
そう言いながら陛下は懐をゴソゴソと……。
なんと! 話すだけで金の延べ棒が!? さすがは天下の皇帝陛下! 太っ腹!
にっこり微笑んで、臆することなく受け取ります。懐へ仕舞えば……ああ、この特有のひんやり感。癒やされますぅ〜。
「それで、何を聞きたいのです?」
「あの腹黒の言う通りだな。しかしゲンキン過ぎでは?」
「お金は大事です」
腹黒とは、丞相の事でしょう。私もそこは同意です。
「あの腹黒はそなたが餌だと言っていた」
「左様です。今のように、陛下が他の貴妃達になさらなかった事を、新参者で身分の劣る貴妃にされたと知られれば、各方面より私の命が狙われる事となりましょう。実はつい先程も慰謝料と共に早速、毒入りの菓子折りもいただきました」
「はあ?!」
やれやれ、驚く事ですか? ここは後宮なのですよ?
第一、私の調度品や金品が皇貴妃の宮の者達だけの手に渡っていたはずがありません。当然、他の宮の誰かしらにも渡っていると考えて然るべきでしょう。
「どこの誰の差し金か、それが貴妃なのか皇貴妃の手の者なのかは、調べなければわかりませんよ」
「皇貴妃では……」
「これまでの皇貴妃と女官達の言動で、皇貴妃の宮に属する女官達の統制は取れていないと推察しております」
「それは……」
言い淀むところを見ると、陛下もご存知のようですね。
私の調度品紛失も然り、毒もまた然り。皇貴妃でなくとも、皇貴妃の宮に属する何者かである可能性は否定できないのです。
それだけ皇貴妃の立場が揺らいでいる。その原因は……陛下の表情からも、ご自身に端を発すると既におわかりのご様子。
「だからこそ、私が入宮する羽目になったのですよ?」
「……すまない」
ふむふむ。やはり自らここへ足を運んだのは、皇貴妃の本心に触れたから。愛妻家なのは良き事です。しかし立場ある者だからこそ、他の女子に与えねばならぬ偽りの愛もあったでしょう。
勿論、そのような陛下と皇貴妃にかこつけて図に乗った、一部の重鎮方もいらっしゃるのでしょうが。陰謀渦巻くのは、後宮ばかりではございませんから。
「ご心配なく。諸事情と趣味で、毒に体を慣らしております。多少の毒や媚薬は、効きません」
「び、媚薬だと!? そなたはまだ十四と幼かろう! というか趣味って何だ!?」
何故毒より媚薬の方に反応を? ほんのり頬を赤くされるとは……さては陛下。ムッツリ助平というやつですね!
陛下は予想に反し、消えてくれませんでしたね。返事には大分、間がございましたが。
昨夜といい今といい、お付きの方が見当たりません。間違いなくこっそりと、この宮に忍びこんでますよね? はた迷惑ですよ?
腰には例の剣を帯剣しておりますが、もし私が暗殺者だったらどうするのです? もちろん名実共に、私は貴妃で間違いございませんが。
「それではまず鳩の首チョンパして、お腹を切って内臓の処理と血抜きをなさっていて下さいな。内臓はこちらの葉っぱを編んで作ったお皿に。私は鍋に水を……」
「鳥と鍋を寄こ……おい、これは花瓶だ!」
しかも普通に手伝ってくれそうな勢いです。皇帝が鳥を捌いて、鍋に水を満たしてくれるのでしょうか?
「食材を入れれば、それはもう鍋です。美しい装飾の、鍋です」
「しかも埃まみれであろう!」
そう言うと魔法で大量の水を出し、ザバッと鍋を洗って一瞬にして水で満たしてくれました。魔力が多いと便利ですね。
「火は?」
「いつでも火をつけられるようにしてありますが、下処理をしてからと……」
「案内しろ」
風除けになりそうな岩の間に案内します。すると陛下は用意していた石と木を組み合わせ、手慣れた様子で即席焜炉に。流れるような作業で鍋を置き、魔法で火を起こしてしまいます。
魔力量が多い方は、本当に重宝しますね。一家に一人は欲しいものです。
感心していれば、今度は鳩と葉っぱ皿を掴んで木陰に。懐から小刀を出してらっしゃいましたから、処理してくれるのでしょう。
「紐は?」
「ここに」
内臓が盛られた葉っぱ皿をズイッと押しつけてきた陛下に、用意していた紐を渡すと、手慣れた様子で鳩の胴を木に逆さ吊り。血抜き作業も完璧です。
手際の良い殿方は、性格がどうであっても素敵に見えるから不思議ですね。
皇帝という、鳥の捌き方など知らなそうな尊き身分の陛下。なのに作業には熟練感。まあ生い立ちが、生粋の皇族と違っている為でしょう。
「それで、そなたは何を目的に入宮した?」
「丞相としっかり報連相なさればよろしいのでは?」
焜炉を挟み、互いに岩に腰かけて一段落すれば、何を怪しんでおられるのか。丞相と話をしたのではないのでしょうか? 目的も何も、丞相の強制ですよ?
「そなたに聞けと」
「割り増し料金をいただきたいくらいですね」
これ以上、契約外の事に手間を割かれるならば、銀塊くらいは……。
「これをやる」
そう言いながら陛下は懐をゴソゴソと……。
なんと! 話すだけで金の延べ棒が!? さすがは天下の皇帝陛下! 太っ腹!
にっこり微笑んで、臆することなく受け取ります。懐へ仕舞えば……ああ、この特有のひんやり感。癒やされますぅ〜。
「それで、何を聞きたいのです?」
「あの腹黒の言う通りだな。しかしゲンキン過ぎでは?」
「お金は大事です」
腹黒とは、丞相の事でしょう。私もそこは同意です。
「あの腹黒はそなたが餌だと言っていた」
「左様です。今のように、陛下が他の貴妃達になさらなかった事を、新参者で身分の劣る貴妃にされたと知られれば、各方面より私の命が狙われる事となりましょう。実はつい先程も慰謝料と共に早速、毒入りの菓子折りもいただきました」
「はあ?!」
やれやれ、驚く事ですか? ここは後宮なのですよ?
第一、私の調度品や金品が皇貴妃の宮の者達だけの手に渡っていたはずがありません。当然、他の宮の誰かしらにも渡っていると考えて然るべきでしょう。
「どこの誰の差し金か、それが貴妃なのか皇貴妃の手の者なのかは、調べなければわかりませんよ」
「皇貴妃では……」
「これまでの皇貴妃と女官達の言動で、皇貴妃の宮に属する女官達の統制は取れていないと推察しております」
「それは……」
言い淀むところを見ると、陛下もご存知のようですね。
私の調度品紛失も然り、毒もまた然り。皇貴妃でなくとも、皇貴妃の宮に属する何者かである可能性は否定できないのです。
それだけ皇貴妃の立場が揺らいでいる。その原因は……陛下の表情からも、ご自身に端を発すると既におわかりのご様子。
「だからこそ、私が入宮する羽目になったのですよ?」
「……すまない」
ふむふむ。やはり自らここへ足を運んだのは、皇貴妃の本心に触れたから。愛妻家なのは良き事です。しかし立場ある者だからこそ、他の女子に与えねばならぬ偽りの愛もあったでしょう。
勿論、そのような陛下と皇貴妃にかこつけて図に乗った、一部の重鎮方もいらっしゃるのでしょうが。陰謀渦巻くのは、後宮ばかりではございませんから。
「ご心配なく。諸事情と趣味で、毒に体を慣らしております。多少の毒や媚薬は、効きません」
「び、媚薬だと!? そなたはまだ十四と幼かろう! というか趣味って何だ!?」
何故毒より媚薬の方に反応を? ほんのり頬を赤くされるとは……さては陛下。ムッツリ助平というやつですね!