みしり、と座っていたベンチが音を立てた。身構える暇もなく、ぴったりと体を寄せられ肩を抱き寄せられる。拒否するように彼の胸元を手で押すが、びくともしない。
 やだ、と声に出す間もなく顔が近づいて口を塞がれた。生温かく、苦い液体が彼の口から私の口の中に流し込まれる。ぺろりと私の唇を舐め、小鳥が啄むように軽いキスを何度もする。
「ビールは嫌いなのに」
「でもキスは好きだろ?」
 そう言うと彼はまた無理矢理唇を合わせ、乱暴に口の中を舌で掻き回す。長い指が私のうなじを撫で、背中を撫でる。触って欲しい部分などお見通しだよ、と言わんばかりに。
「……あんたなんか、絶対許さない」
 唇を離した隙に、私は彼をぐいと押して睨みつける。いいね、その目。彼は私の話なんか全く聞かずにそう言って、私の頬に手を伸ばした。
「瑠璃子のそういう好戦的な目、俺は好き」
 払い除けようとする私の手をするりとかわし、私の首の後ろに手をかけてもう一度引き寄せる。舌を首筋に這わせながら、彼は器用に私のブラウスのボタンを外していった。やめて、と言う私の声は熱い吐息に混じって、花火の音に掻き消される。胸の先端に彼の指が触れた途端、電流のような快感が頭の先から爪先まで貫いた。目を閉じると、瞼の裏で花火が散る。「やっぱり好き」と「でも許さない」の二つの気持ちが混ざり合って、快感に溶けてゆく。
 彼の左手が私の腿に触れた。薬指の指輪の冷たさが心地よく感じるほど、体が熱くなっているのがわかる。
「あんたなんて……だいっきらい……」
 吐息の合間にそう呟くと、彼は顔を上げてもう一度私の唇を塞いだ。
「俺は好きだよ、瑠璃子」
 これからもよろしく、と彼は唇の上で囁いた。ああ、もう、どうしようもない。恵ごめんね、許して。やっぱり許さないで。ごちゃまぜの感情で涙が滲む。唇を重ねて、私はぎゅっと目を閉じた。
 
 あの頃と同じように地獄に、快楽に、堕ちていく。彼が私の中に入ってきて、二人の輪郭が曖昧になる。
 ゆるさないんだから、と呟くと、涙が一筋頬を伝って、熱と共に夜に溶けた。