二本目のビールを飲みながら、他愛のない話をした。
大学で履修している科目の話。サークルやバイトの話。
アルコールも手伝って、さっきまでささくれ立っていた気持ちが嘘みたいに声をあげて笑える自分がいる。
最近、壱星と一緒にいてこんなに笑った記憶はない。
やっぱりすり減っていたのだと、もしかしたら苦痛にすら思っていたのかもしれないと思う。

スナック菓子がちょうどなくなる頃には、三本目のビールの中身はずいぶん軽くなっていた。
缶を揺らすと、心許なくちゃぷちゃぷと高い音が鳴る。
壁掛け時計に目をやれば、23時半を指している。
終電まではまだ余裕の時間だ。
冷蔵庫にもうビールの在庫はないみたいだから、もっとゆっくり飲めばよかったかな。
そうしたら、もう少しここにいる理由ができたのに。
こんなことを考えるなんて、私はそうとう酔っているんだろうか。
いや、そもそもここに来ようと思った時点ですでに可笑しかったのだ。
ふたりきりで会ったことも、連絡をしたこともない男性と、自宅でサシ飲みをするなんてありえない。
どうして私はこのひとに連絡してしまったんだろう。
どうして私は……好きな子がいると知って、胸が痛くなったんだろう。
考え疲れたのか酔いが回ってきたのか、大きなあくびが出て思わず口元を覆う。

「眠いならベッドで寝てていいよ。俺、ソファで寝るから」

予想外の言葉に、すぐに反応できなかった。
もっとここにいたいと思ったくせに、寝てもいいと言われるとどうしていいのかわからない。
けれど咲弥くんに下心がないのは、さっきまでと変わらないトーンと平然とした表情から感じ取れる。
壱星に悪いとは思う。けれど……
帰りたくない。ひとりでいたくない。
……もうちょっと、咲弥くんと一緒にいたい。

「……ありがと。じゃあ借りるね」
「うん、どうぞ」

シングルベッドに横になり夏掛けを胸までかけると、清潔な柔軟剤の匂いがふわりと香った。
几帳面な咲弥くんは、きっと洗濯もマメにしているんだろう。
私がやってあげなければ二週間もシーツを洗わない壱星とは正反対だ。