「終わらせ方が、わからないや」

呟いた声は、笑ってしまうくらい疲弊していた。

「終わらせたいと思ってるの?」
「……うん、多分」
「そっか」

咲弥くんは腕を組んでうーんと唸る。

はっきりとわかっているのは、今の状態を続けてもしんどいだけだということ。
けれど、『別れよう』のたった一言が言えない。
面倒くさがりな壱星と、世話焼きな私。
相性ぴったりなカップルだね、と周囲の友人たちからは言われていたし、私自身もそう思っていた。
私がいなくなったら、壱星の部屋は散らかりっぱなしのゴミ屋敷になるかもしれない。
壱星は駄目になってしまうかもしれない。
驕りかもしれないけれど、そんなことを考えて二の足を踏んでしまう。
これはまだ恋と呼べるものなんだろうか。
それとも、長年付き合った情でしかないんだろうか。
自分の気持ちだというのに、今抱えているものにどんな名前をつけるのが適切なのかわからない。

「付き合い始めるときより、別れるときのほうが労力使うかもね。付き合いが長いと余計にさ」

一点を見つめながらため息を吐くものだから、妙にリアルに感じた。
そうやって別れた経験があるんだろうか。

「咲弥くん、彼女いないんだっけ?」
「もう二年くらいいないよ」
「モテそうなのに」
「全然だよ。サッカーは男ばっかりだし、ゼミとかバイトでもあんまり女の子とは話さないし」

なんだか意外だ。
他高に通っていた咲弥くんを壱星が初めて紹介してくれたとき、明るくて親しみやすいひとだと思った。
人見知りするタイプにも見えないし、決して硬派という感じではないのに。
腑に落ちずにいると、ビールを煽った咲弥くんがテーブルに空の缶を置き「まあ、好きな子はいるんだけどね」と言いながら立ち上がった。

……いるんだ、好きな子。
胸の奥がチクンと痛んだ。

「中身まだ入ってる?飲めそうなら美南ちゃんの分も持ってくるよ」
「うん、ありがとう」

咲弥くんは微笑んでキッチンのほうへと去っていく。
感じた胸の痛みを振り切るように、残りを一気に飲み干した。