私と壱星は高校二年の夏に付き合い始め、丸四年になる。
大学進学のために上京し、それぞれ一人暮らしを始めたけれど、すぐに通学の便がいい壱星の部屋で半同棲状態になった。
何をするのも自由なモラトリアムに浮かれ、昼夜問わずダラダラと一緒にいる生活を続けていたのがよくなかったのだろう。
いつしか外へデートに出かけることも、目を合わせて会話をすることも、感謝の気持ちを伝えることも、愛の言葉を口にすることも少なくなっていった。
そういう些細なことが積もり積もって、気持ちがすり減っていたのだと思う。
今夜、いつものようにバイト帰りに壱星のアパートへ行くと、夕食に食べたであろうカレーの皿がキッチンのシンクに置きっぱなしになっていた。
それを見て心底げんなりした。
今日はシフトに入っていた子が急に休んだため忙しく、最後は溜まった食器を嫌というほど洗ってきたのだ。
「お疲れさま」とリビングに入ると、壱星は机でパソコンを打ちながら「お疲れ」と目も合わせずに言う。
いつものことなのに、今日はそれが私の気持ちを荒ませた。

「お皿くらいすぐ洗いなよ。蒸し暑いんだから、虫がわいちゃうよ」
「レポート終わらないんだもん。あとでやるよ」
「皿洗いなんて一瞬で終わるでしょ?そういうズボラなところ、全然直らないね」

壱星がポンとエンターキーを乱暴に叩き、険しい顔でこちらを見た。

「別にいつやったっていいだろ?美南に洗えって言ってるわけじゃないし」
「私が来るタイミングでこれみよがしに置いてあったら、洗えってことだと思うじゃない」

口調が強くなった私に、壱星は苛立ちを隠さず深いため息を吐き、パソコンに向き直ってまたキーを打ち始める。

「虫が湧くのが嫌なら来なくていいよ。レポートに集中したいから邪魔しないで」

すり減っていた気持ちが、ぷつりと切れた音がした。
来なくていい?邪魔って何?
こういう時、なんだかんだでいつも私が洗い物をすることくらい四年も付き合ってるんだからわかるでしょう?
壱星だってそれを期待してたんでしょう?
湧き上がってくる不満を言葉にするのももう馬鹿らしくなってくる。
全てがどうでもよくなって、何も言わずに踵を返して部屋をあとにした。

それが、ほんの一時間前の話。