モノトーンでまとめられた部屋は、急に来たにもかかわらずきれいに整頓されている。
元々物が少ないというのもあるのかもしれない。
放っておくとすぐに漫画や洋服で散らかってしまう壱星(いっせい)の部屋とは大違いだ。
なんだか落ち着かなくて、ローテーブルの脇にちょこんと正座をした。
キッチンからつまみのスナック菓子を持ってきてくれた咲弥(さくや)くんは、私を見て苦笑いを浮かべる。

「ソファに座ればいいのに」
「ううん、こっちのほうがいいの」
「壱星がいないから遠慮してるの?」
「そういうわけじゃないんだけど」

遠慮というより、今さら緊張しているのだ。
壱星と一緒にこの部屋に来たことはあるけれど、ひとりで来るのは初めてだから。
それに、顔を合わせること自体がもう数ヶ月ぶり。
大学は違うし、私や壱星とは住んでいる地域も離れているから、そう会う機会はない。
今までふたりきりで会ったこともないのだ。
後ろめたい気持ちがないと言ったら嘘になる。
それでも今は、咲弥くんに縋りたかった。
どうして彼だったのかは、あまり考えたくない。

咲弥くんはテーブルの角を挟んで座り、あぐらをかく。
大学でサッカーサークルに入っているという彼は、炎天下での練習で肌がこんがり焼けている。
壱星は部活もサークルもしていない上にインドア派だから、ふたりが並んだらオセロみたいだと思う。

ここに来る途中にコンビニで買ってきた缶ビールのタブを、それぞれ開ける。

美南(みなみ)ちゃん、気使わなくてもよかったのに。うちにもビールくらいあるし」
「お邪魔させてもらうんだから、手土産くらいないと。おつまみ忘れちゃったけど」
「大丈夫。ウチはつまみの品ぞろえ豊富だから」

くすくす笑いながら、「乾杯」と軽く缶をぶつけ合う。
缶を傾ければ、からからに渇いていた喉に爽快な苦味が落ちた。
真夏のビールほどおいしいものはない。
初めてビールを飲んだときは、どうしてこんな不味いものをみんな飲みたがるんだろうと思っていたのに、不思議だ。
多すぎるくらいの一口飲んで息を吐いたところで、咲弥くんが口火を切った。

「で、壱星と喧嘩でもしたの?」
「……うん」

咲弥くんのアドレスは壱星を通じて知っていたけれど、直接連絡を取ったことは今まで一度もない。
だから、『これから行ってもいい?』なんてメッセージがいきなり来たら、察するのは当然だろう。

「原因はなに?」
「カレー」
「は?カレー?」

咲弥くんは突飛な声を上げ、訝し気に首を傾げる。

「甘口派か辛口派か、みたいな?」
「ううん、もっとどうでもいいこと」
「カレーの味よりどうでもいいことって、この世の中にあるんだ」

思わず噴き出した。
カレーは甘口か辛口か。目玉焼きには醤油かソースか。
そんな微笑ましい揉め事ならどんなによかっただろう。
私たちも、遠い昔にそんなやりとりをした記憶があるけれど。