初恋に終わりを告げる夜


その男性とは桜庭涼太。
中学時代からの友人で、私の許嫁の涼介さんの弟だ。
軽くウェーブのかかったダークブラウンの髪の毛。
目鼻立ちのハッキリとした端正な顔立ちをしていて、涼介さんとよく似ている。

「なんでいるんだよ、明日結婚式だろ」
「なんでって、飲みに来たから」

もっともな答えに涼太は溜め息をつきながら、私の隣に座った。

「兄貴は?」
「涼介さんは友達と飲んでいるよ。私はさっきまで志乃と由香と食事していたの。この一杯だけ飲んだら帰るよ」

目の前のギムレットのグラスを指差す。

「そういう涼太は一人で飲みに来たの?彼女は?」
「あー、別れた」
「嘘でしょ、早くない?」
「大きなお世話。マスター、マルガリータ」

マスターに声をかけている涼太を見た。
彼女と付き合っても涼太は長続きしないと涼介さんが言っていた。
涼太は一人の女性を想い続けたりしないんだろうか……って私がどうこう言える事じゃないけど。
 
「明日が結婚式か……」

ポツリ呟き、目の前にあるカクテルグラスの縁を人差し指でなぞった。

「なんだよ、マリッジブルーかよ」
「違うよ。結婚式の準備とか大変だったなと思い返していただけ」
「なるほどね」
 
涼太は口の端を上げて笑う。
本当に大変だった結婚準備。
『桜庭グループ』の御曹司の結婚だから普通の規模ではなかった。
涼介さんのご両親とも話し合い、家族ぐるみで準備を進めていった。
長い付き合いだけあって、嫁姑関係は良好だ。

「明日、入籍もするんだろ?」
「うん。結婚式と結婚記念日が同じ日にしたいから」
「そうか。でもさ、澄香が義理の姉になるなんて実感ねぇな」
「だよね。私も涼太が義理の弟になるなんていまだに信じられないよ」

涼介さんよりも先に出会っていた涼太。
ふと、彼と初めて会った時のことを思い出していた。