『お母さん、これって絶対に結婚しないといけないの?』
『……桜庭グループの会長の遺言だから、』
私の問いかけにお母さんは申し訳なさそうに唇を噛んだ。
顔も知らない人と結婚しないといけないなんて絶望しかなかった。
結婚の話は祖父同士の戯言だったはずではないのかと問いただしたかったけど、私のおじいちゃんも一年前に他界して誰にも確認する術がなかった。
『そんなの私が望んだ訳じゃないのに……。おじいちゃんたちが盛り上がって勝手に決めたんじゃん。私の気持ちは無視してっ』
悔しくて悲しくて涙が溢れ落ちた。
なにが私には許嫁がいて、結婚相手がいるよ!
そんなのおじいちゃんたちのエゴじゃん。
じゃあ、私は人を好きになってもその人とは付き合うことも出来ないし結婚も出来ないの?
納得出来る訳がなかった。
『私、まだ十四歳だよ。どうして……』
『ごめんね、澄香。お母さんたちじゃどうしてあげることも出来なくて』
お母さんは泣きじゃくる私を優しく包み込むように抱きしめてくれた。
芽生えたばかりの淡い恋心を諦め、私が中学二年の冬、『桜庭グループ』の桜庭涼介との結婚は決定事項となった。
勝手に将来のレールが敷かれ、私を取り巻く環境がガラリと変わった。


