「そろそろ帰るね」
「俺はもう少し飲むから気を付けて帰れよ」
「うん」
支払いを済ませると、再び涼太の元へ行き肩をポンと叩いた。
スツールに座っていた彼は「なに?」と私を見上げた。
「ねぇ、知ってる?私の初恋は涼太だったんだよ」
「は?」
突然の私の告白に驚いたように目を見開いた涼太。
私は間髪入れずに言葉を続けた。
「中学の時、涼太に告白したかったけど憶病すぎて言えなかったんだ」
「だからって今言うなよ……」
涼太は顔を歪め、クシャリとダークブラウンの前髪を掴む。
その姿を見て、なぜだか胸が締め付けられた。
「ごめん。でも、今日が最後のチャンスだと思ったから……」
私は小さく息を吐くと、報われなかった初恋に終止符を打つために口を開いた。
「涼太、中二の時まで好きだったよ」
私は涼太のことが"好きだった"。
ずっと言えなかった気持ちを素直に伝えたら心がスッキリしていた。
「澄香、俺もっ……いや、何でもない。澄香の気持ち、嬉しかった。好きになってくれてありがとう」
首を振って何かを言いかけて止めた涼太は、優しく微笑んだ。
「気を付けて帰れよ」
「うん。じゃあ、明日ね」
「おう。澄香、幸せになれよ」
「ありがとう。世界一幸せな花嫁になるわ。六月の花嫁だしね」
私は笑顔で言うと、背を向けた。
その時の涼太がどんな表情をしていたかなんて、知る由もなく。
私はバーのドアを開け、幸せになるための一歩を力強く踏み出した。
End.


