スーパーから戻り、ミトは帰宅を教えるために寄り道せずに波琉の部屋へと向かう。
蒼真はというと、帰ってくるや桂香が滞在することで増員された神薙からなにかを耳打ちされ、「まじか!」と驚きの声をあげ、慌てて屋敷の中に消えていってしまった。
なにかあったのかミトが問いかける暇もなかった。
長い廊下を歩いていると、お腹を仰向けにした無防備すぎる姿でひなたぼっこをしている白い犬のシロを発見。
そばには黒猫のクロとスズメのチコの姿もある。
その二匹と一羽は、今や波琉の眷属となり、ただの動物ではなくなった。
寿命も普通の生き物とは別の道を歩むことになり、いずれミトが天界へと行く時には一緒に来てくれるという。
本当にそれでいいのか心配だった。
ちゃんと意味を理解しているのかという意味でも。
特にシロだ。その時の感情で行動を決めている性格のシロが、本当に深く考え意味を理解して蹴っていたとどうしても思えない。
だがまあ、シロの保護者であるクロも同じく波琉の眷属となったので、クロはちゃんとシロのことも考えた上で判断しただろうと、そこは信頼している。
とはいえ、普通の生き物としての生き方から外れるのだから、ミトは幾度も確認してみた。
一度眷属となっても解消できるのかミトは分からなかったので、波琉と桂香に可能だと確認済みで。
今ならまだ仲間も生きている。
これまでと変わりなく生きていける。
それでもシロたちの意見は変わることなく、ミトのそばにいてくれるそうだ。
波琉の正式な伴侶となり、墜ち神によって人間の肉体を失った今のミトの肉体は、天界で天帝に与えられたもの。
老いなくなった体は、もう人の枠を外れた存在だ。
両親や友人・知人が皆、年老いて亡くなっても、ミトは今の姿のまま変わらず生きていく宿命を負う。
それを選んだのは他ならぬミト自身。
後悔はないが、いずれ来る親しい人たちとの別れを考えるだけでつらく、涙があふれそうになるのを耐えるのが大変だ。
だからこそ、見送るだけのミトには、見送らずに済むシロ、クロ、チコの存在はとても大きく心強かった。
『星奈の村』で過ごしていた時のミトを知る貴重な友人でもあるので、余計にそう感じるのかもしれない。
『ミト、おかえりー』
いち早くミトに気がついたシロが起き上がり、嬉しそうに尻尾を振る。
そうすればクロがトコトコ歩いてきて足に体を擦りつけ、チコは飛んでミトの肩に止まった。
ミトがしゃがみ込んでクロの頭を撫でると、もふもふとした柔らかな毛が癒しを与えてくれる。
この二匹と一羽は、今や家族と変わりないほどミトの心の大事な部分を埋めていた。
『ねえねえ、なんだか新しい龍神が来たみたいなんだけど、ミトは聞いてる?』
チコの問いかけにミトは首をかしげた。
「新しい龍神? ううん、波琉からはなにも聞いてないけど?」
桂香からも同じくだ。
「あ、でも、さっき蒼真さんが慌てて中に入っていたから、きっとそのせいかな?」
龍神が来たとなれば、神薙である蒼真が慌てるのは仕方ない。
きっと蒼真も聞いていなかったのだろう。知っていたらミトにも教えてくれているはずだから。
「波琉の部屋にいるの?」
『そうみたいよ』
「行っても大丈夫かな?」
『ミトなら問題ないわよ』
あっけらかんと言うクロに、チコも肩でぴょんぴょん跳んで同意する。
『そうそう。波琉がミトを邪険に思うなんてあり得ないんだし、部屋には漆黒の王もいるからなおさらよ』
波琉と桂香がミトを叱るはずがないと分かっているからこその発言だろう。
波琉はまだしも、桂香もミトを気に入っていることを本人以上に理解しているクロたちだった。
はた目にはチュンチュンとしか聞こえていない光景も、この屋敷では特に違和感なく受け入れられている。
ミト以上に恐ろしい力を持つ龍神の前では、動物と会話できるミトの能力は微々たるものに映るのだろう。
ミトは桂香もいると聞いて、少し驚く。
「桂香様もいるんだ」
新しく龍花の町に降りたのなら、挨拶に来たと思われる。しかし、そんな些末なことにいちいち付き合う桂香ではない。
桂香ならば、面倒だという理由で、龍神ですら追い返しそうである。
「ちょっと行ってみるね」
『いってらっしゃーい』
『気をつけてね』
『波琉から離れちゃ駄目よ』
無邪気なシロと違いクロとチコのまるで保護者のような言葉には、ミトも苦笑を禁じ得ない。
ミトの方が長く生きているのに、どうもクロとチコの方がしっかりしている気がする。
クロとチコは庇護すべき対象としてミトを見ているのがよく分かった。
「そんな頼りないかなぁ……」
クロたちと別れてミトはひとりごちる。
それはさておき、新しく来た龍神とはどんな神様なのだろうかと興味で頭がいっぱいになった。
きっと、波琉や桂香に負けない美しい容姿を持った者に違いない。
ミトがこれまで姿を見た他の龍神は、例外なく綺麗な容姿を持った者ばかりだったのだから。
少し緊張しながらミトは部屋の前に来て声をかける。
「波琉、入っていい?」
すぐに了承の言葉があると思って扉に手をかけていたが、返ってきたのはミトには予想外の真逆の言葉。
「今は駄目だから、ミトは両親の家に行っていて」
「え? でも新しい龍神様が来てるならご挨拶を……」
「こんなのに必要ないから、ミトは――」
珍しく焦りをにじませているように感じた波琉が言い終わる前に、目の前の扉が勢いよく開いた。
そこには、波琉にも負けず劣らずの綺麗な顔立ちの青年が立っていた。
ひと目で龍神だと分かる、圧倒的な存在感。
驚きのあまり目を丸くするミトに、青年はじろじろと検分するような眼差しを向けてくる。決して気持ちのいい視線とは言えなかった。
「あの……」
すると、一転して青年はにっこりと人のいい笑みを浮かべた。
「君がミトちゃん?」
「は、はい……」
青年は戸惑うミトの手を取り、強いほどぎゅっと握って、そのまま上下に振った。
「やあやあ、初めましてだねぇ。俺は志季君だよー。気安く志季君って呼んでねぇ」
「は、はぁ……」
どんな返し方が正解か分からずに、気のない返事になってしまった。
ミトは助けを求めるように青年の後ろ側、つまり部屋の中に目を向けると、嫌悪感を隠そうともしない険しい顔の波琉と桂香の姿が目に入った。
さらに、ふたり以外にたくさんの女性が座っており、女性たちは興味津々にミトを見ている。
志季のようなぶしつけな眼差しではなく、キラキラと目を輝かせた好意的なものではあった。
「あの方が紫紺様の伴侶の方なのね」
「きゃあ、かわいらしい!」
「着物を見繕って愛でたいわね」
「でも、今の時代は着物よりも洋服の方が主流のようよ。どうしましょう?」
決して大きな声ではなかったが、なにやら盛り上がっている女性たち。
「あの……」
いつまでも握ったままの手に困惑するミトが、離してほしいと訴えるように手に目を向ける。
「ああ、俺が誰かって? いい質問だね!」
まだなにも聞いていないというのに。ぐっと親指を立てる志季のテンションの高さに、ミトはついていけていない。
「俺は白銀の王、志季君だよん」
「えっ!」
ミトは驚いて思わず声が出た。
「それでもって、他の子たちは俺の愛する恋人たちさ~」
オーバーな動きで手を広げて部屋の中にミトを招き入れる。
先ほどから気になっていた女性たちは、ニコニコとした笑みを浮かべながら品よく手を振ってくる。
同じく手を振り返すか迷うよりも、その恋人の多さが頭の中を占める。
「え、全員ですか?」
「もちろん!」
そんな人畜無害そうに明るく言う内容ではない。
ミトの価値観では、恋人とは普通ひとり。
しかし、部屋にいる女性は七人ほどいた。
皆その立場に不満はないのか、ほわんとした柔らかな笑みを浮かべている。
ミトだったら絶対にそんな顔はできそうもない。
「龍神はハーレムを作るのが普通なんですか……?」
「そうだよー」
ひどく衝撃を受ける。それはつまり……。
「波琉もハーレムを作ったり――」
「しないから!」
ミトが盛大な勘違いを起こしそうなところで、波琉の大きな否定の声が部屋に響いた。
そして、桂香が志季に向かって、その場に用意されていたお饅頭をひとつ掴んで投げつけた。
それを手でキャッチするのではなく口で受け止めた志季を、桂香が強く叱りつける。
「たわけ者! ミトが天界について無知なのをいいことに、嘘を教えるのではないのじゃ!」
「嘘なんだ」
ミトは心からほっとする。
「ミト、そんなのの近くにいたら危ないからこっちにおいで」
波琉が手招きをしてミトを呼び寄せる。
にっこりと邪気のない笑みが余計に不機嫌さを訴えているように感じる。
「う、うん」
「わらわとの間に座るのじゃ」
桂香にも促されて、まるで波琉と桂香に守られるようにしてふたりの間に座る。
おそらくこの世界でどこよりも安全な、龍神の王ふたりの間。
そして、波琉はそれとなくミトの腰に手を回してから、なんとも冷ややかな目を志季に向けた。
「志季、なにしに来たの?」
「とっとと帰るのじゃ!」
桂香までもが敵意をむき出しだ。
金赤の王・煌理とは不仲に思えなかったが、志季とはあまり仲がよくないのかとミトは心配しながら黙って成り行きを見守っていた。
「つれないなぁ、ふたりとも。だって、ずるいじゃないか。他の王は全員人間界に降りたのに、俺だけ残されるなんてさー。後に続こうとしたけど、補佐たちに椅子に縛りつけられて止められちゃったんだよ。ひどいと思わない?」
「まったく」
「そのまま千年ぐらい縛られておけばよいのではないか? 今度わらわが、特別製の縄をお前の補佐に渡しておいてやるのじゃ」
「ひどい!」
煌理とは違い、志季に対するふたりの冷たさとはいったい……。
下手に口出しできる雰囲気ではなかったので、ミトは静かに様子をうかがう。
「お前まで来てしまって、天界はどうするつもりじゃ!」
「隙を突いて逃げ出して水宮殿に行ったら、ちょうど煌理が帰ってきていてね。それなら天界は煌理がいれば大丈夫だなって任せて降りてきたんだよー」
「お前のことじゃ。任せたというより、押しつけてきたのじゃろ」
じとっとした目を向ける桂香から目を逸らした志季の様子を見るに、正解といったところかとミトは判断する。
「帰れ!」
くわっと目を剥き怒鳴る桂香は、聞いていた通りの、苛烈と呼ばれるにふさわしい厳しさがあった。
それに対して志季は……。
「やだやだやだ~。俺だって遊びたいもん。恋人たちとたまには人間界で過ごすのも悪くないしぃ」
と、まるで駄々っ子のようだ。
あきれたように息をつく桂香はこめかみを押さえた。
外見はミトより年下なのに、今の桂香は反抗期を迎えた息子を持つ母親のように見える。
「この子たちにとっても、久しぶりの里帰りをさせてあげたかったしね」
「里帰りさせたいだけなら、その子たちだけおいて帰ればいいんじゃない?」
珍しく冷たい波琉に驚くミトだが、波琉は怒っているというよりは不機嫌という表現が正しいように思えた。
「駄目駄目。僕がいなくてどうすんのさ。この子たちが寂しがるだろう? ねえ、皆?」
志季に話を振られ、ニコニコと微笑みながら頷く七人の女性たち。
そこでミトは気づく。彼女たちの手の甲にはミトと同じような花のあざがあることに。
「え、花印?」
花印を持っていること自体はおかしなことではない。
なにせ龍神の王である志季が連れてきた人たちなのだから。
驚いたのは、ひとりだけではなく全員が花のあざを持っていたからだ。
ミトは混乱した。
普通、同じ花印を持つ龍神はひとりだけ。
この女性たちは全員恋人だと、先ほど志季の口から聞かされたところである。
花印の伴侶ではなく、恋人だと。
それに加え、志季の手をそっと見るが志季に花印の印はなく、天帝によって選ばれた人間の伴侶がいないのはあきらかだった。
それなのに、花印を持った恋人がたくさんいるという不思議。
これはどういうことなのか、疑問符が浮かぶ。
教えてくれたのは、ミトの隣に座る波琉だった。
「彼女たちはあくまで志季の恋人であって、伴侶ではないよ」
「でも、花印が……」
ミトが言わんとしていることはちゃんと波琉に伝わっていたようで、詳しく説明してくれる。
「彼女たちは元は別の龍神の伴侶だった者たちだ。この龍花の町で、同じ花印を持つ龍神に見初められて天界へ上がったはいいものの、関係を解消して志季の恋人になったんだ」
いろいろな事実が衝撃すぎたが、もっとも気になったのは関係が解消されるという話。
「伴侶に選ばれて天界へ行っても、伴侶じゃなくなったりするの?」
それはミトにとってかなり重大な問題だった。
ならば自分も、波琉と花の契りを交わしていても絶対に一生そばにいる保証にはならないということになる。
たくさんの覚悟をした結果、花の契りを交わしたというのに、ミトの覚悟はあまり意味のないものだったのか。
その問いかけに波琉が答えるより先に、志季から残酷なまでの現実を突きつけられる。
「そうだよ。花の契りを交わして天界に行ったからといって、関係が永遠に続くわけじゃない。関係が悪くなるなんて珍しくないさ」
先ほどまでのどこか軽薄な雰囲気から、真剣味を帯びた声色へ変わっている。
「花の契りは決して絶対的な契約ではないよ。あくまで、天帝が選んだ相手を気に入った場合に、天界に連れていくための手順のひとつでしかないんだ。勘違いをする人間が多いんだけど、君もそうだったんだ。残念だったねえ」
志季はどこかミトを嘲るように笑う。
志季の言葉を波琉も桂香も否定しないことから、それが嘘でないと分かった。
「そんな……」
つまり、自分も波琉との関係が解消される可能性もあるのだと知り、急激な不安に襲われる。
もしそうなったらどうしたらいいのか。
すでにミトの肉体は人間のものではない。人の輪廻の輪を外れてしまっている。
波琉というよりどころを失ってしまったらと考えると、目の前が真っ暗になった気がした。
しかし、そんな不安を一蹴するように、隣に座る波琉がミトをひょいっと持ち上げて膝の上に乗せる。
「ひゃっ!」
突然のことにびっくりして声をあげるミトを、波琉は後ろから手を回して抱きしめた。
「え、え、え?」
戸惑いと人前であることへの羞恥心におろおろするミトに、波琉の力強い言葉が耳に流れてくる。
「ミトは心配する必要のない問題だから大丈夫だよ。僕がミトを手放すなんて絶対ないしね。志季の言葉は気にしなくていいよ」
波琉は『絶対』と強調してみせる。それはミトだけではなく、志季にも宣言するかのように聞こえた。
「波琉……」
わずかな言葉で、心を覆うもやがあっさりと晴れていく。
我ながら単純だなと、ミトは心の中で苦笑する。
だが、波琉の言葉だからこそ素直に信じられるのだ。
これが別の誰かの慰めだったなら、不安で夜も眠れなくなっただろう。
けれど、志季はまだ言い足りないようで……。
「なになに。そんな言葉ですぐに引き下がるとか単細胞すぎない? そんなんだとすぐに詐欺師のカモにされちゃうよ。波琉は天界ですっごくモテるんだからさ。あっさり捨てられちゃうかもねぇ。天界には君とは比べ物にならない美人で性格もいい、魅力的な相手がたっくさんいるんだから」
ニヤッとした顔で逆撫でするような言葉を発する志季に、ミトの表情が沈む。
確かにその通りだ。否定できないので、ミトは反論したくても言葉は出てこない。
誰を選ぶのかは波琉の自由で、『もうミトは必要ない。別の人を選ぶ』と決めたら、もうミトにはどうしようもない。
同じ花印を持っているからといって絶対に伴侶になるとは限らないと、ミトはこの龍花の町に来てから嫌というほど分からされていた。
天界にいた時間はさほど長くはないけれど、水宮殿にいる龍神たちを思い浮かべれば、ミトは自分がいかに平凡なのかを知らしめられた気になった。
自然と顔が下を向き、まともに顔を上げて志季を見れない。
先ほどの波琉の言葉で上向きになったはずの心が沈んでいく。
波琉を信じているはずなのに、新たに知らされた事実が重くのしかかる。
すると、波琉は膝に乗せていたミトを下ろし、元いた位置に戻す。
そして立ち上がり志季の前に立った直後、スパーン!と小気味よい音が部屋中に響いた。
「いってぇ!」
痛がる志季の前で仁王立ちする波琉は、笑みすら浮かんでいない真顔。しかもいつの間にか、その手には巨大なハリセンが握られていた。
普段、尚之相手に使っているハリセンより倍ぐらい大きい。
いつ手に入れたのか……。
いや、どこから取り出したのか疑問である。
「なにするんだよ、波琉! 俺の綺麗な顔に傷でもついた――」
突然ぶっ叩かれた志季は不満をぶつけるが、言い終わる前に第二撃が志季の顔面に打ち込まれる。
「ぐはっ」
その遠慮のない攻撃に志季は涙目だが、桂香は自業自得だというように「ふんっ」と鼻を鳴らしていて、波琉を咎める様子はない。
むしろ、「もう十発ぐらいお見舞いしてやるのじゃ」などと煽っている始末。
そこに、波琉の静かな声が落ちる。
「ねえ、なんの立場で僕のミトを惑わせてるの? 何様のつもりなの?」
笑みを浮かべる波琉の目は笑っていない。
顔は笑っているからこそ、余計に怖い。
「だからって叩くことないじゃん? しかも何様って、俺は白銀様だし。てか、それなに?」
「ハリセン」
見れば分かるだろうと言わんばかりの顔で答える波琉は、さらに打ち込もうとしたものの、さすがに三撃目ともなるとかわされた。
ならばと、それを見ていた桂香が動く。
畳の床を指先でトントンと叩くと、そこから一気に草が生え、意思を持ったひとつの生き物のようにうごめき、志季にまとわりつく。
「うげっ」
途端に焦りを見せる志季。
ミトも桂香が力を使っている場面を見たことがなかったため、目を大きく見開いて驚く。
「わらわのミトに不安を与えるとは万死に値する。とっとと出ていけ!」
草はミトに見向きすらせずに、正確に志季のみに向かう。
「うわうわ! ちょっと待って!」
「待つか、馬鹿者! 地の果てまで追い払ってくれるわ! 覚悟いたせ」
「うわー!」
草からはさらにツタが生まれ、まるでムチのように志季をペシンペシンと打った。
さすがの王でも、ふたりの王を相手に分が悪かったようで、桂香に追い打ちをかけられ一目散に逃げていった。
「あらあら」
「うふふ。仲がおよろしいですね」
「私たちも白銀様を追いかけなければ」
「そうですわね。それでは、紫紺様、漆黒様、伴侶様。今日は失礼させていただきます」
志季の恋人たちはまるで何事もなかったようにのんびりと落ち着いた様子で一礼し、立ち上がる。そして、志季の後を追って部屋から出ていった。