「ただいまー」
「おかえり、志帆」
今日は体育祭の練習と部活があったため、いつもより疲れた。
体育祭の練習が始まってから、すでに二週間ほど経ち、もう体育祭が三日後に迫ってきている。嬉しい思いもあるが、楽しみな分、終わってしまうという悲しさもある。
ふと思い出した時、自然と笑顔になれるような、そんな思い出になったらいいな。

「もうご飯できてるよ」
「うん。ありがとう。先に着替えてくるね」
お母さんの前でも笑顔を貼り付け、自分の部屋に入り扉を閉めた所で、やっと笑顔の仮面を外す。
「はあー」
疲れる。学校だけではなく、家でも落ち着ける場所が、私には自分の部屋ぐらいしかない。
前はそんなことなかったんだけどな。
中学生になるまでは、私もお兄ちゃんたちと同じように頑張るんだと意気込んでいた。それに、なぜか漠然と、私もお兄ちゃんたちのようになれるとそう思っていた。なんの根拠もないくせに。
でも、中学生になり、自分はお兄ちゃんたちと同じようにはできないと気づいてしまった瞬間、私の中で何かが崩れた。それがなんなのかは未だにはっきりしていないけれど、このままお兄ちゃんたちを目標にしていいのか、分からなくなった。
これまで私は、K高校だけを見てきた。他の高校に行きたいと思ったことはないし、見てみたいと思ったこともない。
だけどそれは、単にK高校が一番身近だったからなのかな。お兄ちゃんたちがK高校に進学していなかったら、もしくはお兄ちゃんたちがいなかったら、私は今のようにK高校を目指していたのだろうか。今はそんなことばかり考えている。
「志帆ー、ご飯冷めちゃうよー」
一階こらお母さんが叫ぶ声がする。
「よし!」と心の中で呟き、再び笑顔を張り付ける。
「はーい!今行くー!」

「最近忙しそうねえ、志帆」
「うん。部活も大会に向けて力入れてかなきゃだし、体育祭も近いからね」
「無理はしないでね」
「大丈夫だよ、ありがとう」
私は今ちゃんと笑えているだろうか。表情が引き攣ってしまっていないだろうか。自分では確認することができないから不安だ。