午後7時、涼太が家に来た。
いつもと全く変わらない様子で、丁寧に靴を揃えて家に上がっていった。
お母さんもお父さんも、いつも通りだった。
違っているのは、私だけ。
今日の午前0時、私は涼太に失恋する。
じゃあ、告白しなければいいだけだ。
夕飯とお風呂を済ませて、自分の部屋に行って、あらかじめ考えておいた作戦をあらためて頭の中でシュミレーションする。
何度かそうしていくうちに、気持ちが落ち着いてきた。
そして。
「風香〜、いる?」
控えめなノック音と声が聞こえて、部屋のドアノブをガチャリと回した。
「いるよ。もう寝るの?」
「もうちょっとしたらね」
涼太は曖昧に答えた。
涼太が来た時は、私の部屋に布団を二枚敷いて寝る。
だから必然的に、私は涼太と話すことになる。
私は作戦を頭の中に入れながら布団に入った。
涼太も私の隣に寝転がる。
「なんかさー、懐かしいな」
涼太が不意に、そうこぼした。
「そうだね」
私も答えた。
思い返してみれば、いつもここに二人並んで寝そべっていた。
懐かしい思い出が次々と溢れ出てくる。
それを気まぐれに呟きながら、「そんなこともあったね」と言い合う。
たったそれだけの時間が、とても幸福なものに思えた。
そして、ひとしきり話し終えた後。
「風香ってさ、好きなやついんの?」
涼太が言った。だけど夢の中では、私が先に聞いていたはずだ。
何かが違う。少しずつずれている。
「いないけど。そういう涼太は?」
「いないよ」
涼太は予想通りの反応を返した。
それから、1分間くらいの沈黙が流れた。
これでいい。もうこのまま、眠ってしまおう。
そして、この恋はなしにしよう。
そう思って目を瞑った。
涼太のことが、ただ好きだった。
涼太が笑えば私も笑って、涼太が泣けば私も泣いて、一緒に怒ったり、一緒に悔しがったりした。
大きくなって、二人で遊ぶ時間が減っても、心の隅には涼太がいた。
一度でも涼太が頭の中からいなくなったことはなかった。
それくらい好きで、大切だった。
気づいたら、抱きしめていた。
女の子みたいに華奢な涼太の、でも思い出より大きく逞しくなった体をぎゅっと。
大好きだった。涼太の胸の中は暖かくて、どんなに悲しいことも忘れられて。
悲しい時はまるでテディベアのように涼太を抱きしめていたのを思い出した。
ああ、やっぱり離れられないな。
胸がどうしようもなく切なくて、涙が溢れた。
私の涙は涼太の服にシミを作った。
切なさが胸を支配して、もう何も考えられなくなった。
涼太はそんな私を、ただ静かに受け止めてくれた。
そしてそっと尋ねた。
「どうしたの?」
優しい言葉に、涙は次から次へと溢れてくる。
ああ、終わりたくない。
言わないまま、終わりたくない。
伝えたい。
そこにどんな結末があっても。
この恋を、なかったものにしたくない。
そんなこと、できない———。
「涼太」
「ん?」
私は息を深く吸い込んで、ずっと言えなかった言葉を囁いた。
「大好きだよ」
いつもと全く変わらない様子で、丁寧に靴を揃えて家に上がっていった。
お母さんもお父さんも、いつも通りだった。
違っているのは、私だけ。
今日の午前0時、私は涼太に失恋する。
じゃあ、告白しなければいいだけだ。
夕飯とお風呂を済ませて、自分の部屋に行って、あらかじめ考えておいた作戦をあらためて頭の中でシュミレーションする。
何度かそうしていくうちに、気持ちが落ち着いてきた。
そして。
「風香〜、いる?」
控えめなノック音と声が聞こえて、部屋のドアノブをガチャリと回した。
「いるよ。もう寝るの?」
「もうちょっとしたらね」
涼太は曖昧に答えた。
涼太が来た時は、私の部屋に布団を二枚敷いて寝る。
だから必然的に、私は涼太と話すことになる。
私は作戦を頭の中に入れながら布団に入った。
涼太も私の隣に寝転がる。
「なんかさー、懐かしいな」
涼太が不意に、そうこぼした。
「そうだね」
私も答えた。
思い返してみれば、いつもここに二人並んで寝そべっていた。
懐かしい思い出が次々と溢れ出てくる。
それを気まぐれに呟きながら、「そんなこともあったね」と言い合う。
たったそれだけの時間が、とても幸福なものに思えた。
そして、ひとしきり話し終えた後。
「風香ってさ、好きなやついんの?」
涼太が言った。だけど夢の中では、私が先に聞いていたはずだ。
何かが違う。少しずつずれている。
「いないけど。そういう涼太は?」
「いないよ」
涼太は予想通りの反応を返した。
それから、1分間くらいの沈黙が流れた。
これでいい。もうこのまま、眠ってしまおう。
そして、この恋はなしにしよう。
そう思って目を瞑った。
涼太のことが、ただ好きだった。
涼太が笑えば私も笑って、涼太が泣けば私も泣いて、一緒に怒ったり、一緒に悔しがったりした。
大きくなって、二人で遊ぶ時間が減っても、心の隅には涼太がいた。
一度でも涼太が頭の中からいなくなったことはなかった。
それくらい好きで、大切だった。
気づいたら、抱きしめていた。
女の子みたいに華奢な涼太の、でも思い出より大きく逞しくなった体をぎゅっと。
大好きだった。涼太の胸の中は暖かくて、どんなに悲しいことも忘れられて。
悲しい時はまるでテディベアのように涼太を抱きしめていたのを思い出した。
ああ、やっぱり離れられないな。
胸がどうしようもなく切なくて、涙が溢れた。
私の涙は涼太の服にシミを作った。
切なさが胸を支配して、もう何も考えられなくなった。
涼太はそんな私を、ただ静かに受け止めてくれた。
そしてそっと尋ねた。
「どうしたの?」
優しい言葉に、涙は次から次へと溢れてくる。
ああ、終わりたくない。
言わないまま、終わりたくない。
伝えたい。
そこにどんな結末があっても。
この恋を、なかったものにしたくない。
そんなこと、できない———。
「涼太」
「ん?」
私は息を深く吸い込んで、ずっと言えなかった言葉を囁いた。
「大好きだよ」