「あれ、メール……」
ふと見たスマホに表示される受信時間は、三十五分前。その横には、『良太』と別れを告げられた好きな人の名前。
「大事なことかもしれないよ」
友達の勘なのか、男の勘なのか、開こうか悩んでいる私に読むように促す。躊躇しながらそれを開くと、そこには長いメッセージが並んでいた。
初めはマイペースに読んでいたけど、目で文をスピードはだんだんと早くなり、最後まで読んだときにはもう、いても立ってもいられなくなっていた。
「凛くん、ついてきて」
「え、どこに?」
「いいから」
戸惑う凛くんの腕を引き、運良く捕まえられたタクシーに乗り込む。指定した行き先を聞いて、凛くんはもう、理解が追いついていなかった。
「なんで病院?」
「これ、読んでほしい。さっき届いたメッセージなんだけど」
良くんからのメッセージ。早く、早くと心の中で運転手さんに圧をかける。
頭の中では、何度も良くんの声でさっきのメッセージが再生される。

『早柚へ

突然別れようなんて言って、ごめん。
苦しんでいるのに気付いていたのに、寄り添ってあげられなくてごめん。
それでもどうしても、後悔をしています。
付き合ったこと。そして、別れたこと。
最後の言葉だと思って、読んでほしい。

僕は昔から、心臓に病気を持っていました。
それだけじゃない。他人と自分の死期がわかる能力も、何故か一緒に持っていました。
最悪の組み合わせだよな。自分がいつ病気で死ぬか、先生よりも正確にわかるんだから。
高校生になって、早柚を好きになって、他に早柚のことが好きな奴に相談した。そいつが早柚のことを好きって気付いたのは、相談したあとだったけど。
そいつよりも自分のが早く死ぬんだから、少しくらい自分が優位に立ってもバチは当たらないと思った。
今でもそいつとは友達だけど、あのときのことが未だに頭をよぎる。こんなことしなければよかったのかなってたまに思うよ。
不幸にしたのは、そいつだけじゃない。僕の都合で振り回した早柚にも、本当に申し訳ないと思ってる。
大切な人には、世界一幸せになってほしいって思うのが普通のはずなのに、自分の幸せしか見てなかった。
きっと、それが早柚のしんどさを見て見ぬふりをしていた性格にも出てたんだと思う。
ごめん。

最後にお願いがあるんだ。
都合のいいことを言っているのはわかってる。
こんなことを書いたくせに、矛盾してるのもわかってる。
でも、最後の願いを聞いてほしい。
来るか来ないかは、早柚に任せる。

僕はどうしても早柚が好き。愛してる。
でも、僕は今日、死ぬ。自分の周りに黒いモヤがかかっているから、この事実が覆ることはない。
だから、会いに来てほしい。最後に、怒っていても泣いていても、嘲笑っていてもいいから、顔が見たい。
入院してる病院の詳細も、ダメ元で送ります。

ごめんな。六年間、一緒にいてくれてありがとう』

凛くんも、目の奥が絶望で満たされるほど、ショックを受けていた。そして、共に願った。生きて笑うあなたに会いたいと。