自分がとことん嫌になる。
頭よりもっと、心で、身体で死に近づきたくて、赤信号の横断歩道に身を投げたはずだったのに。今、夜の海で凛くんとお酒を飲み交わしている。
凛くんといる時間は比較的心が楽になり、酒が入るとつい、弱音を吐いてしまう。
「先が見えないのは、怖いよな」
そうお酒を飲む横顔は、卒業式のときよりもずっと大人っぽくて、かっこよかった。
友達としてなのか。好きだった人という名残が戻ってきているせいか、はたまた弱っているせいか。振られた直後なのに、そんなことを思った。
凛くんの前では、不思議と涙が零れる。安心する。弱い自分が顔を出そうとする。
だから、会いたくなかった。五年間、連絡も取らず、顔も見せずに過ごしてきたのに。
「私、もう人生終わりかも」
誰にも、良くんにさえ話さなかったことを、ポロッと話してしまう。
「失恋なんて、そんなものだよ」
凛くんの口調は、相変わらず優しくて。言葉選びとか、聞くときの相槌さえ、何も変わっていなかった。
「それだけじゃないの。私、私……」
ずっと、心の中に閉じ込めていた。自分の犯した罪を。痛みと、苦しさを。
「いじめられてる。職場で、入社したときから」
不思議と涙は零れなくて、ただ乾いた笑いが口から出ていく。自業自得だとわかっているのに、自分のやらかしたことは嫌われるのが嫌だから話したくないなんて、勝手すぎるかな。
「なにそれ。五年間、ずっと?」
初めて聞く怒りに満ちた低い声。ついビクッと身体が震えた。あんなに優しい凛くんから、こんな声が出てくるなんて思ってもみなかった。
「うん。でも、しょうがないよ」
「しょうがなくないだろ」
凛くんは泣いていた。声を震わせて、空っぽになった缶を怒りからか、握りつぶしながら。
「ずっと、言えなかったのか?良太にも、誰にも」
……怒ってるんじゃない。きっと、気付けなかった自分を恨み、後悔してる。潰れた缶を握る手が、弱々しく震えていた。
全然会っていないこの状況で、気付くほうが難しいのに。
「うん。でも、凛くんが聞いてくれたでしょ。なんか、ちょっと軽くなった」
「そういう性格って、わかってるけど。もうこれ以上、一人で抱え込まないで」
頭を空いた手で抱えながら、顔を隠すようにして涙を流し続けた。
その涙につられて、私も泣いた。助けてと、泣く権利なんてないのに。凛くんに寄り添うふりをして、肩を寄せ、震える手をそっと包み込んで。心の中でだけ、凛くんに縋っていた。
「……これからはもっと頼って。早柚がいなくなったら、俺は……」
こんなに弱々しい凛くんを見るのは初めてだった。
あぁ、私はこの人の為にも生きていないといけないと、生きていていく理由ができた気がした。この暗い死にに行くような世界で、凛くんという温かいあかりの灯る一本道ができた気がした。