僕が早柚と出会ったのは、凛と出会った翌日だった。
高校一年生の春、同じクラスになって初めてできた友達が凛だった。そして、次の日に三人で一緒にご飯を食べた中に早柚がいた。
一目惚れだった。綺麗な瞳に、屈託のない笑顔。はじめましてのはずなのに居心地が良くて、無意識のうちに惹かれていた。
「凛くんって、そういうとこあるよね。人の弱いところ見つけるのが得意っていうか」
「一緒にいる時間が長いから、変化に気付くってだけだよ」
そう、凛と親しげに話しているのを見て、羨ましく思ったりした。ひたすらに羨ましい気持ちだけじゃないのは、ものの二日で凛がどれだけ良い奴かわかっていたから。
「良太くんも、悩みがあったら凛くんに言うといいよ。語彙力ないけど、聞いてはくれるから」
そう言われて、つい話してしまった。早柚のいない、二人で帰るときに。
「僕、早柚のこと好きかも」
そのときは、まだ気付いていなかった。凛も早柚が好きだってこと。小学生のときからの長い片思いだってこと。
もちろん、凛もそんなこと一言も言わなかった。ただにこっと微笑んで「お似合いだと思う。頑張って」と、いつもより暗い笑顔で言っただけだった。
そこで気付いたけど、気付かないふりをした。
自分はみんなよりも早く死ぬのだから、友達であれ、周りの人の幸せをほんの少し奪うことを見て見ぬふりをしてもバチは当たらないと思った。この選択が、友達の凛だけでなく、早柚にまで不幸を与えることになることまでは考えていなかった。
「凛とはいつから友達なの?」
凛の協力で二人で帰ることが増えて、それがなんだか板に付いてきた高二の冬。ふと気になって聞いた。今まで聞いてこなかった、知っているようで知らなかったこと。早柚は上の方を見つめて「んー」と唸っていた。
「小学生のときから。もう、ずっと一緒なの。腐れ縁ってやつかな」
夕日に照らされる笑顔は、何よりも綺麗で。まるで創造物のようだった。現実にこんなに素敵な人が存在するのかと、圧倒された。きっと好きだというフィルターがかかっているのもあるだろうけど、そんなのも打ち砕くような美しさだった。
「好きだ」
つい、口からこぼれていた。理想的な告白とはほど遠く、自分の中でも伝えたことに対しての驚きが大きかった。
「……それ、ほんと?」
僕が立ち止まっている間に少し前を歩く早柚が、くるりと振り向いた。
笑っていた。でも、少し寂しそうな顔もしていた。
「ほんとだよ」
嘘だと、このときに笑っていたら。どんな未来があるのか。今更現実にはできないけど、想像することは容易かった。
「私も、良太くんのことが好きだよ」
まっすぐに飛んでくる言葉を、そのまま信じて六年。早柚を振り回している自分ができあがるなんて思ってもいなかった。心の痛みを和らげてあげることさえしてあげられないまま、好きという気持ちで縛り付けて、時間だけが過ぎていた。