目が覚めると、もうクリスマスの夜だった。
二十四時間目が覚めなかったことに恐怖を感じると同時に、死期が迫っているのを身をもって感じた。
早柚は今、誰と過ごしているんだろう。
会いたい。手を握って、その温もりを感じたい。やっぱり好きなんだと、伝えることは許されないけど、せめてもう一度、声を聞きたい。顔を見たい。
その願いだけで、電話をかけるのはやはり都合がよすぎるだろうか。きっと、でてくれない。辛そうな早柚に、寄り添って痛みを共有できなかった。その悩みの原因が会社関係ってことも、ちゃんとわかっていたのに。話さないなら聞くべきではないかもしれないと、大事にしているフリをして、自分を守っていたのだから。

『早柚へ』

そう、メッセージを打つ。読んでくれないかもしれないけど、僕のことを少しでも、覚えていてくれたら。その願いから、僕は早柚に宛てたメッセージを、一人寂しい質素な部屋の中で横に並べた。
あわよくば血相を変えて会いに来てくれたらと、綺麗な感情は控えめで。ただ、今思っていることを素直にそこに書き出した。
心が苦しかった。チクチクと、嫌に痛む。
ナースコールは押さなかった。これは恋の痛みだと信じていたから。
送信ボタンを押した。既読は、さすがにまだ付かなかった。
前のやり取りを見て、ただ懐かしさに触れる。まるで片付けをしている最中にアルバムが出てきてつい魅入ってしまうように。
『何が食べたい?』
『良くんありがとう』
『大好きだよ』
文字を見ているだけで、思い出す。そのときにどんなことがあって、どうしてこんなやり取りをしているのか。一日一日が大切で、貴重で。
失うのが、自分から手放したくせに怖くて。
逃げずに話せばよかったと後悔した。
ただ暮れていく夜を、キラキラと光る街中を、病室の窓から見下ろした。
僕がいなくなったら、二人がくっつけばいいと、半分本気で、もう半分はやけくそで。あとは凛への大きな罪滅ぼし。
近づく死の予感の中で、他の誰でもなく、早柚と凛のことを考えていた。