「別れよう。他に好きな人ができたんだ」
心の中で何度も謝りながら、嘘がバレないか心配になりながら、別れ話を切り出した。
早柚は下手くそな笑顔で、今にも泣きそうな顔をして、納得のいってない小さな声で「わかった」と頷いた。
泣かないとわかっていながらも、もしその顔を見ることになったらきっと、抱きしめてしまうから。最低限の荷物を持って、そそくさと家を出た。
一緒にいたくて、早柚の家に転がり込んだ同棲生活を始めて、二年と少し経った、クリスマス前夜だった。
家の前の、木にまとわりつく電球が、キラキラと輝いているのが涙ごしに見えた。
大きな罪悪感と、喪失感。あと、小さな小さな安心感。
白い封筒型の袋に入った、延命のための薬を睨みつけながら、そのままタクシーに乗って病院へ向かった。
自分の身体の弱さと、能力を恨んで、恨んで、恨んで。着いた病院の個室で、情けないほど泣いた。
「安静に過ごしてください。先日お話した通り、余命は二ヶ月です」
主治医の先生が、着いた途端泣き出した僕を哀れむような目で見てそう言った。
「わかってます。そんなの、僕が一番わかっています」
少し反抗的になるのも、今日だけは見逃してほしい。迷惑だけはかけないと、約束するから。
何度も見返した写真。
もらったプレゼント。
買ったけど渡せなかった、婚約指輪。
それらを思い出と共に棚に飾りながら、止まることのない失恋の涙を床に落とした。