三十分ほど車を走らせて、海についた。
風はないけど、さっき外にいたときよりも寒さを感じる。手をポケットに入れないと、凍って動かなくなってしまいそうなほど、冬の海はひんやりしていた。
「星が綺麗だね」
石段に座り、俺も空を見上げる。零れ落ちそうなくらいの星たちが、空で光っていた。無意識に憧れてしまうほどに。
一緒に車から降ろしたお酒をプシュッと開けて、俺に手渡す。苺味のチューハイだった。
カツンとぶつけて、喉を通す。甘くて、クリスマスパーティを始めるにはピッタリだ。
「……あ、車……」
一本飲み終わったとき、ふと思い出した。
俺よりも、街頭に照らされる早柚の顔がサーっと青ざめる。やばいと、無意識に思った。
「え、そうだ。嘘、ごめん」
一瞬カジュアルな謝罪で安心するけど、それも束の間。早柚の目の光は、ひとつもなかった。故意的にハイライトを消した漫画の目のような、ある意味ゾクッとしてしまうような、手を離したら今にもどこかへ消え去ってしまいそうな雰囲気さえも感じ取れた。
「いいよ。暖房効くし。ブランケットも積んでるから、朝まで寝ることくらいはちゃんとできるよ」
冷めたクリスマスチキンに手をつけて、空いた手でビールを開けた。片手でプルトップを開けるのは、二十歳を過ぎてから習得した、役に立たない特技。
「早柚も食べな?冷めてるけど、美味しいよ」
「……ごめん、本当に」
早柚は缶を持つ手を小さく震わせて、必死に冷静を保とうとしている声を向けた。ショックは尋常ではなかったのだと、あの時といい今といい、本当によくわかる。
「本当、大丈夫。こういうクリスマスのほうが、思い出に残るし楽しいよ」
「……ありがとう。凛くんは、ずっと優しいね。凛くんが同僚だったらな……」
思わぬ言葉につい、変に探って土足で足を踏み込んでしまう。「職場で何かあったの?」と、人あたりのいい早柚に限ってそんなことはないと思いながらも、つい聞いてしまった。
「社会人だから、それなりにね」
下がらない目じりを、目を瞑って誤魔化していた。早柚は嘘をついていた。相手を不快にさせないための、優しさのある身体に悪い嘘を。
「俺も、入社してからずっと……」
そこまで口に出して、飲み込んだ。
こういう言葉が欲しいわけじゃないと、無理な共感は大切な人を傷つけかねないと思ったから。
「辛いよね、生きるって」
頷きながら、お酒を流し込む。足元にはもう、空き缶が二つ並んでいて、そこに今飲み終えたもう一つが仲間入りした。
「そうだな。先が見えないのは、怖いよな」
波の音が静かな夜の中、音だけが今生きていることを証明してくれている気がする。
それは、何となくだけど共感できるところがあった。今感じている未来は、明るくない。でも、こうして一緒にいる時間は社会人になってからで一番、生きている心地がした。
ただ穏やかで、痛い。でもそれを隠して、友達としてここに座っている。
ビールを飲み干して、明日が休みでよかったと、新しい缶を開けながら思った。