コンビニでお酒と、軽いおつまみ。目に入った売れ残りのクリスマスチキンも購入して、早柚の電話番号とにらめっこしながら歩く。
赤信号の交通量の多い道路で、一か八かで電話をかけた。
プルルルル、プルルルル……。
直に耳に届く呼出音。
ヴー……、ヴー……。
同じタイミングで、小さく聞こえる着信音。
この人も、誰かに思われてるのかな。早柚は今、何をしているんだろう。
そう思いながら隣に立って信号待ちをしている女の人が、全然電話に出ないことに不信感を抱いて、横目でその人を見る。
目を疑った。ぼーっと前を見て、車が来ている道路に向かって足を進め始めた。まだ交差道路が青信号で、歩行者信号も点滅すらしていないのに。
そしてその女の人は、大人っぽくはなっていたけど、明らかに早柚だった。
「何してるの。赤信号だよ」
ぐっと腕を掴んで、車道スレスレのところから歩道へと引き戻す。
「……凛くん……。なんで……」
早柚も驚いた顔をして、こちらを見ていた。
泣きはらした目。睡眠不足なのか、クマが酷い。五年ぶりに予期せぬ再会をした早柚は、完全に疲れ切った人の顔をしていた。
「たまたま、近くまで来てたんだよ」
とりあえず横断歩道から数歩離れる。渡らないと帰れないけど、まだ信号は変わらない。
「大丈夫か?」
「うん。全然大丈夫だよ」
早柚はにこっと微笑んだ。完全に聞き方を間違えた。弱音を吐けないのに、こんなに強がることが簡単な質問は投げかけるべきではなかった。
「良太から聞いたよ。別れたんだって?」
「あー……、あはは」
文字に書いたような笑い方。辛いとき、誤魔化しきれないくらいしんどいとき。早柚はいつもこんな笑い方をしていた。
「ちょうど、晩酌しようと思って買ったんだけど、一緒にどう?クリスマスに男独りじゃ、寂しいから」
この手を今だけでも掴めるのなら、なんでも良かった。あわよくばこの恋が動き始めたらいいとは思ったけど、それよりも、一人にさせるのが怖かった。
「……しょうがないなぁ」
早柚の断れない性格を利用したみたいにはなったけど、変わらない柔らかな微笑みが見られたから、間違ってはなかったかな。
さすがに早柚もいるのに缶ビールだけは味気ないかなと、二人でコンビニに逆戻り。
さっき顔を合わせた店員さんが不思議そうにこちらを見つめてきたから、苦笑いで会釈をした。どうか、怪しい人だと思われませんようにと。
「凛くんの家、遠い?」
そう、カゴを片手にこちらを見る。
明るいところで見ると、しんどいという気持ちが、身なりにも顔色にも、全面的に溢れている。昨日の今日の割には、なんだかボロボロすぎると感じるほど。
「向かいの駐車場に車停めてるから、数分で着くよ」
「じゃあ、アイス食べようかな」
フルーツ系の缶チューハイを全制覇する勢いでカゴに入れ、その中にスナック菓子、アイスも仲間に加わる。
「すみません、お願いします」
そう、気付いたらカゴをレジに差し出していたから、水を数本追加してもらって、大丈夫だと言い張る早柚より先にクレジットカードを手渡した。
早柚には悪いけど、ちゃんと怪しくないことを証明しないといけないんだ。少しぎょっとするような値段だったけど、再会とクリスマスを祝うことを考えると妥当な気もした。
「買ってもらった上に持ってもらうなんて、さすがに申し訳ないよ」
「気にすんな。俺は今日、サンタになったんだよ」
「なにそれ」
ふふ、と早柚は小さく吹き出した。
自分の言葉に寒気はしたけど、俺は本当にサンタになりたかった。早柚の人生に温かい光を当てられるような、日々を楽しく過ごせるような手助けができるような、そんなサンタに。
「乗って。どこか行きたいところ、ある?」
買ったものは後部座席に積んで、早柚を助手席に乗せた。エンジンをかけて、流行りのJPOPメドレーを流す。
「海に行きたいな。最後に見る景色は、夜の海って決めてるから」
窓に頭を預けながら、まるで宝石のような綺麗な涙を静かに頬を伝わせながら、クスリとも笑わずに言った。
連れて行くべきではない。それは十分理解していた。だけど、車は自宅と反対方向の冬の夜の海の方へと向かっていた。
タイミング悪く失恋ソングが流れ始めた、そんなドライブの始まりだった。