ノックもせずに、良くんの入院する病室に入った。驚いていた。私と凛くんの顔を何度も見て、「ごめん」と涙を流した。
「なんで言ってくれなかったの」
「ごめん。言いたくなかったんだ。早柚にも、凛にも」
良くんは本当に今日死ぬのかと思うくらい、顔色も良く、ピンピンしていた。
「ねぇ、凛。お前も読んだんだろ?」
「あぁ。でも俺は二人が付き合って、幸せそうに顔を合わせるのを見て、本気でよかったって思ったよ」
そう聞いて、チクリと胸が痛む。
「私も、良くんに謝りたいことがある」
本当は言わないほうがいいのかもしれない。でも、言わずには別れられなかった。二人に嫌われる覚悟で、私は口を開いた。
「ごめん。良くんに告白されたとき、凛くんが好きだった。もちろん今は良くんが好きだけど、あのときは三人での関係が崩れるのが嫌で、断れなくて付き合ったの。」
良くんは首を横に振った。優しい笑顔で、「それでもよかった」と、さっき一瞬止まった涙がまた流れた。
「二人は両想いだったのに、間に割り込んだ僕が誰よりも悪いんだ。こんなに良くしてくれてありがとう」
そう、申し訳なさそうに眉を下げた。
「凛」
良くんが凛くんの方を向いたとき、突然苦しそうに胸をおさえた。唸る声が耳に届く。
「今度はお前が幸せになれよ。早柚とでも、そうじゃなくてもいいから、幸せになって。早柚も、ちゃんと幸せに生きろよ」
苦しそうに、途切れ途切れで話す良くんの声。
無意識にその時が来たと悟った。私は右手を、凛くんは左手を包み込んで、泣いた。
「生きろよ。諦めるなよ。久々に三人で集まったのに、これで最後かよ」
凛くんの言葉に頷きながら、手を握りつづけた。生きつづけてほしいと願った。
その願いは虚しく、看護師さんが来た頃には良くんは力尽きていて、良くんの死亡が確認された。