「じゃぁ、そろそろ食べますか!」
「あ、私のせいで冷めちゃって…ごめんね」
申し訳ないと思って謝ったのに、
「やけ食いなんだから、冷めてた方がガツガツいけますよ?」
彼は全く気にしていないようで、
「やけ食い?なにそれ」
「だって振られたんだから、やけ食いでしょー?」
「もーっ、振られたって言うなー!」
2人で、大声で笑った。
ありがとう…元気出たよ。
彼が注文してくれたテーブルいっぱいの料理はどれも冷めていたけど、私のこれからを応援してくれているようで、どんな美味しい料理よりも美味しく感じられたーーー…。

「あれ、寝ちゃった…の?」
お腹いっぱい食べた後、せっかくだから歌おうということになったのだけど…わたしが歌っている間に、彼は夢の中へ行ってしまった。
時刻はもうすぐ24時---こんな時間にお腹いっぱい食べたら、眠くなって当たり前か。
その前には、泣きじゃくる私の面倒までみていたのだから。
疲れた…よね。
どうしよ、起こした方がいいかな…。
あれこれ考えながら、彼の顔をまじまじと見る。
「…」
今頃気づいたけど、キレイな顔してるな…。
すやすや眠る彼を見ていたら、だんだん恥ずかしくなってきた。
私は初対面の彼に、何という言動を…普通なら引くよね。
でも彼は、私を気遣い励ましてくれた。
「本当に…ありがとう」
でもやっぱり申し訳ない気持ちが大きかった私は、このまま帰ることにした。
今なら終電にも間に合う時間だ。
私はカラオケの店員に、30分後にコールするようお願いをして、ひとり帰路についた。

途中あの歩道橋を通ったけど、もう死にたいとは思わなかった。
月は、まだ綺麗に輝いていて、彼の笑顔を思い出させる。
"月が…綺麗ですね"
一昔前の小説家か誰かが、"I love you"をそう和訳したーーーふとそんな話を思い出した…。
「………」
彼のあの言葉に、そういう意味が込められていないのはわかってる。
でも、今思い出すと少しくすぐったい気持ちになった。

そうして間もなく、私が残したメモを見た彼からの着信音が鳴り響いた。
「はい…」
「幸さん…?」
「うん」
わかったのは、彼の名前が悠太(ゆうた)ということと、私より2歳年下であること、それから…また会いたいと言われた瞬間、何でスマホの番号を書いたメモを残したのかも、わかった。

それは、私もまた会いたいと………思ったからだった。