「あ、じゃぁ俺が代わりにもらいましょうか?」
「え?」
「プレゼント。誕生日だって言ってたから、用意してたんですよね?」
「…」
そうだった…まだカバンの中に入りっぱなしだった。
「捨てたら、あなたの気持ちが無駄になるから…でも持っていたくはないでしょ?」
「………」
行き場のなくなったプレゼントをどうするかなんて、少しも考えていなかった。
だって私は、死ぬつもりだったんだから。
「あ、売りますか?」
「…ううん」
私はバッグの中から小さな箱を取り出すと、彼にそっと手渡した。
「プレゼントとして買った物だから、誰かに貰ってもらった方が、このプレゼントも喜ぶよね…?」
彼は丁寧に箱のリボンを(ほど)きながら、
「そうですね」
と笑顔で言った。
箱の中からは、1ヶ月前に私が健也にと選んだブレスレットが出てきた。
「着けても、いいですか?」
私は頷くことしか出来なかった。
ブレスレットを見た瞬間、健也との思い出が次々と甦り、私はまた泣きそうになっていたから。
毎年、誕生日とクリスマスのプレゼントを選ぶ時は、ドキドキして嬉しくて、それがたまらなく幸せだった。
でももう、それも終わり。
「…」
バイバイ…健也。

「うわー、俺こんなの欲しかったんですよ!似合ってます?」
健也にプレゼントするはずだったブレスレットを左手首に着けた彼が、嬉しそうに声をあげた。
「…うん」
本当は健也のためにーーーなんて事は、もう考えない。
「今度、お返しさせてください」
「えっ、それはいいよ!そもそも君に買った物じゃないんだから!」
「でも、貰ったのは俺だから。ありがとうございます」
そう言って律儀に頭を下げる彼。
家に持って帰ってたら、それを見て私はきっと泣いていた。
それから何年も引き出しの中にしまいこんで、どうする事も出来ないでいるかもしれない。
「私の方こそ、ありがとう」
零れそうだった涙は、止まっていたーーー。