「もう、大丈夫だから…ありがと」
背中をさする彼の手が止まり、私は顔を上げた。
どれくらい泣き続けたのだろうか、泣きすぎて目が痛かった。
ひどい顔、してるんだろうな…。
泣いてる時に名前を呼ばれた気がしたけど…私、名前なんて言ったかな。
「…ん?」
「な、何でもない…」
不思議そうに彼の顔を見てたら目が合って、私はすぐに目を逸らした。
「少しは落ち着いたみたいで良かった」
「…」
顔を見なくても、きっと最初に見せてくれた柔らかい笑顔なんだろうと、その声からわかるほどだった。
「泣いてわめいて、最悪だったよね私。ごめんなさい」
それに八つ当たりして叩いたりーーー初対面の人に、そうでなくてもやってはいけない事だった。
「全然。大丈夫だから」
それなのに彼は怒るどころか、ひたすらに優しい。

「わ、私ね…」
「…はい」
「高校生の頃から、付き合ってた彼氏がいたの」
「…」
「本当に大好きで、同棲しようなんて話も出てたんだけどね…振られちゃったんだ」
彼の視線を感じながら、私は天井を見上げていた。
「それで、もうどうでも良くなっちゃって…」
「……」
「今日その彼氏の誕生日で…あ、もう元カレだね、私が色々とセッティングしてたのにだよ?酷くない?」
それも、何だかもう遠い過去のように思えるから不思議だ。
「"新しい恋愛"がしたいんだって。8年も一緒だったのにーーー」
「酷い話ですね…」
「うん…でも、」
「…?」
君に出逢えたから、私は笑顔になれたよ。
「悔しいから、私も"新しい恋愛"してやろうと思って!」
一度は私の人生終わったと思ったけど、あの時本当に終わらせなくて良かった。