「本当に…好きだったの……」
「…」
「私は健也しか…健也しか知らないの……!」
「……」
「別れたくなかったよぉ…!同棲する話だってしてたのに…ねぇ何で⁈結婚するんじゃなかったのぉ⁈」
お酒に弱い私は、さっきのカクテル一気飲みでふわふわとしていて、抑えが効かなくなっていた。
「私の8年間を、返してよ…!」
泣いても泣いても、涙は止まらなかった。
「泣いてください。いつかスッキリするから」
「…!」
何でこんな事が、言えるんだろう…。
「健也のバカバカバカー!うわぁぁぁぁーん!」
何でそんなに、優しい笑顔なんだろう。
面倒な女を引っかけたと、普通は思うよね…?
「今日は、健也の誕生日で…プレゼントも用意して…、しょ…将来の事とか、色々話せるかと……」
「ーーーうん」
「新しい恋愛って何⁈私だけ期待して、バカみたいじゃん…!」
年齢的には"男の人"なんだろうけど、"男の子"とも言えるくらい童顔の彼は、とても穏やかな表情をしていて、まるで私の全てを包み込んでいるかのようだった。

「お酒!それちょうだい!」
「え、これは俺の…」
私は、彼のお酒のグラスを手に持つと、勢いよく傾けた。
「む…ぐ……ゴホッ、ゴホン…!」
それはサワーか何かで、炭酸が苦手な私は簡単にむせてしまったのだった。
「大丈夫…?」
「もぉ嫌っ!」
「ちょっ…」
バシっと力いっぱい彼の腕を叩いたのは、ただの八つ当たりで。
「もぉ何なのよー!わぁーん!」
感情に任せて、泣いた。
(さち)さんーーー」
その瞬間、彼の腕が私の背中に回されて、本当に包み込まれてしまった。
例えこのまま押し倒されたとしても文句は言えないーーーそんな思いが脳裏をかすめていったけど、抱きしめられて密着するなんてこともなく、ふんわりと…守られているような感覚だけが続いた。
その状態で、ひたすら声をあげて泣いた。
私が泣き止むまで彼は、ただ背中をさすってくれていただけだった。