「何で、カラオケなの…?」
それでもやっぱり密室的な空間が気になって、聞いてしまった私。
「あ、ここなら好きなだけ泣けるし、顔も気にしなくていいかなって思ったんで…」
「………」
それが理由…?
私の事を、考えてくれたってこと…?
オーダー用のタブレットを器用に操作している彼の横顔を見て、少し恥ずかしくなってきた。
ナンパじゃないか、何かされるんじゃないかーーーそんな心配は要らなかった。
「テキトーに頼んじゃいましたけど、良かったですか?」
「うん。ありがとう…」
「どういたしまして」
ただただ、彼の気遣いが嬉しかった。
「食べ物が来るまで、俺の歌でも聞きますか(笑)?」
言いながら、その指はデンモクをなぞっていた。
「わ、私…」
「はい?」
「カクテル…飲みたいな」
「もちろんです!じゃぁ俺も何か飲もうかな〜」
彼はすぐにデンモクから指を離すと、オーダー用のタブレットを手渡してくれた。

間もなく、頼んだカクテルや食べ物が運ばれてくると、テーブルはデンモクも置けないくらいの状態になっていた。
「すごい量…」
「ちょっと頼みすぎましたね!でも賑やかで楽しくないですか?」
そう言って「あはは」と笑った後で、
「乾杯!」
私のグラスと彼のグラスが、優しくカチンと音を立てた。
"健也、お誕生日おめでとう!"
「………」
泣くな…。
"別れよう、幸"
「嫌…」
「どうしたんですか…?」
泣くなーーー!
思い出される光景に涙を堪えることが出来なかった私は、ぐいっとグラスを傾けた。
「…っ、はぁっ…はぁ……っ…」
そして、だん!っとグラスを叩きつけるようにテーブルに置いた。
それを黙って見ている彼と、目が合った。